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第二百八十二章 歓迎パーティの夜 1.パーティ会場~開幕~

本章も些か長丁場になります。

 公邸到着の翌々日にシアカスターを発ったモルファン王女一行は、その三日後――別の言い方をすれば、五月祭の八日前――には王都イラストリアに到着していた。


 当初予定していたノンヒュームの菓子店視察を切り上げてまで急いだのは、この後に予定しているバンクスへの移動日程を考えての事である。王都でも何かと外せない用事が出て来るであろうし、スケジュールの自由度は高い方が良い。

 どうせシアカスターに公邸を構えている以上、菓子店に行く機会は幾らでもある。対して五月祭に行く機会は、新年祭を考慮に入れても年に二回しか巡って来ない。どちらを優先するかなど、今更訊くまでも無い事だ。

 甘味の亡者に()した者たちをシアカスターに置き捨てて、イラストリアへの道を急いだ甲斐あってか、日程を一日ほど短縮する事ができたのだ。重畳(ちょうじょう)の次第である。


 (つつが)()く王都イラストリアへ到着した王女たちは、(あん)(じょう)色々な外交交渉などに巻き込まれる事になった。ただし幸いだったのは、イラストリア側がモルファンの希望を――こちらが決まり悪くなる程に――忖度(そんたく)してくれた事で、バンクス行きの手配はきっちりと済ませてあった。ありがたい事である。


 それに……外交の方も無駄ではなく、重要な知見が幾つも得られた。その最たるものが、イラストリア王城において開かれた、アナスタシア王女の歓迎パーティであろう。



・・・・・・・・



 最初に気付いたのは参加者の顔ぶれ。隣国であるイスラファンやマナステラ、マーカスまではまだいいとして、国境を接してもいないモルヴァニアの使節までが招待されている。平素から王都に常駐している訳でもなさそうだから、このパーティのために態々(わざわざ)呼ばれたという事だろう。そうまでしてモルヴァニアを優遇する理由は何なのか。イラストリア(このくに)が抱えている外交上の問題を念頭に置けば、うっすらと見えてくるものがある。



(……テオドラムとの関係かしらね)



 モルヴァニア・マーカス・イラストリアの三国は、ともにテオドラムを仮想敵国としている。〝敵の敵は味方〟という古くからの論理に基づけば、これら三国の間に何らかの同盟関係が結ばれていてもおかしくはない。

 してみるとこれは、三国の関係を周りに知らしめるべく()されたものなのか?



(いえ……そうとばかりも言えないわね。隣国であるマナステラとマーカスを呼んで、モルヴァニアだけ呼ばないというのも問題だから、公平を期すために特使を呼んだ……という方がありそうな気もするわ)



 どのみちこれは、母国への報告案件だ。頭を悩ますのは大人の仕事。子どもの仕事ではありません。


 とまぁ、この件については心に蓋をした王女であったが、この日彼女を襲った〝重要な知見〟は、それだけに留まらなかったのである。


 ――参加者の顔触れに気付いたのはカールシン卿であった。国内の有力貴族が参加しているのは当然としても、どうも参加者は有力貴族だけではないようなのである。



(「……どういう事? 下っ端貴族で人数の水増しをしてるって事?」)



 だとしたら、祖国モルファンを()(くび)るような振る舞いではないか。



(「いえ、イラストリアがそのような事をする理由がありませんし、何より主立った貴族たちは、余さず出席しているようです。それに加えて、下級貴族も招待したように見えますが……」)

(「イラストリアの下級貴族が漏れ無く出席してるって事……じゃ、ないわよね?」)

(「はぁ……」)



 もしもそんな真似をしたら、到底この会場だけには収まりきれまい。そこには何らかの選別がある筈だが、その基準とは一体何なのか?

 いや、それよりもなぜ、イラストリアはそんな真似をしたのか?


 例えば、是非ともモルファンに紹介したいが家格が低い者たちを、この機に紹介しようとした……というなら一見筋は通りそうだが、だとしたら、今に至るも一向に紹介される気配が無いのは如何(いか)なる事か?


 カールシン卿ともども内心で首を(ひね)っていたところに、「時の氏神」宜しく登場したのが……


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