第二百八十一章 義賊参上!~プレリュード~ 2.本番前の打ち合わせ(その2)【地図あり】
『私見ですが、宣伝戦はマンパワー頼りの部分があります。そしてこの点に関しては、我々が動員できる人数はヤルタ教に及びません。なので、仮に正体を明かしても、数の暴力で上書きされる可能性があるのではないかと愚考します』
『ふむ……』
『少なくとも初動においては、こちらがイニシアチブを取れる状況が望ましいかと』
『『『『『う~ん……』』』』』
さすがに近代戦に明るいクリスマスシティーだけに、問題の本質を言い当てていた。ヤルタ教が数にものを言わせてカウンター・プロパガンダを挑んできた場合、クロウ陣営の不利は明らかである。
そしてそれを覆すためには、ヤルタ教が知った時には手遅れで、既に義賊の噂が広まっている……という状況が望ましい。
『つまり……ヤルタ教の拠点からはほど遠く……』
『その一方で、噂が迅速に拡がるだけの人の動きがある場所……って事か』
『一気に選定が難しくなったわね……』
そうすると、先程候補に挙がったベーレンの村は、
『ヤルタ教商人の一行も必ず通った筈だよね』
『つまり、村の奴らは事情を知ってる訳か』
『どうかなぁ……自分たちの失態を触れて廻るような事はしないんじゃ?』
『けどよ、ヤルタ教の教会があるんだろ? 事情を説明しない訳にゃいかんだろうが』
『つまり……教会を通じて本部には話が通ってるわけで』
『義賊やっても直ぐにバレるよねぇ』
『おまけに教団本部にも即刻ご注進が行く――と』
『はい、終了』
――と、流れるように却下が決まる。更には、
『そうすると……街道沿いに他に幾つか村があるけど……』
『街道沿ぃって事はぁ、人の出入りもぉ、多ぃよねぇ』
『人目を避けるのが難しい?』
『それもあるけどよ、旅人とか泊まるやつらが多いって事ぁ、そいつらも振る舞いのご相伴に与るって事だぜ? 〝不当に抑圧された労働者の権利を回復する〟のたぁ……ちと違わねぇか?』
『あー……確かに』
――と、街道沿いの村も基本的に外される方針が決まる。
……と言うか、逆に言えばそこまでしか決まっておらず、具体的にどこと名指しできる状況ではない。
はてさてこれはどうしたものかと、一同雁首並べて地図――と言うか、以前にクリスマスシティーが撮影した航空写真――に見入っていたところで気が付いた。
『……おぃ、ここにあんなぁ村じゃねぇのか?』
『村……?』
『あ、確かに。村ってよりも、小さな集落って感じだけどな』
それはベーレンの東隣にあるトマという名の小村から、更に北東に外れたところにあった。
何でまた、こんなところに集落が――と、一同訝っていたところで、以前に「谺の迷宮」周辺の訊き込み調査に従事したニールが思い出した。
『村を追われた小作人……?』
『へぇ。ベーレンの東にある村の長ってなぁ強突張りで、何かとイチャモンを付けちゃあ農地を取り上げて自分のもんにしてるそうで』
『……そうして土地を奪われた農民が、小作人に身を落とした挙げ句に……』
『村から追放されたという訳でございますかな』
『なぁにそれ。酷い村長もいたものね』
一同あまりの仕打ちに憤慨しているが、要は〝資産家階級の圧政に虐げられた者たちの集落〟という事だ。成る程、「シェイカー」が振る舞いを施すには打って付けではないか。
『んじゃ、振る舞いの対象はここってことで』
『いや待て。この集落一つだけだと、酒の量が多過ぎやしねぇか?』
『あー、確かに』
『住んでる人数、そんなに多いとは、思えないよね』
『……おぃ、気を付けてみるとあちこちに、こういう集落っぽいのがありゃしないか?』
成る程。言われてみればあちらこちらに、小規模な集落らしきものが点在している。その事情については明らかでないが、ひょっとすると他にも〝村を追われた小作人の集落〟が存在しているのかもしれぬ。
『まぁ事情はともかくよ。あんまり裕福そうにゃ見えねぇし、残りもこの辺りに散撒きゃいいんじゃねぇのか?』
――バートの提案は、満場の了承を以て迎えられた。
【お知らせ】
ぶんか社様の自社サイト「マンガよもんが」様において、拙作「転生者は世間知らず」コミカライズ版の配信が始まりました。作画は桝多またたび様です。
展開の流れやテンポが小説版とは少し異なっているので、既にお読みになった方にもお楽しみ戴けると思います。
本作に限りませんが、キャラクターが紙面の上で動くのを見ると、感慨深いものがありますね。
取り急ぎご報告まで。




