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第二百八十章 シアカスター 5.モルファン王女公邸~シャルド回想~(その1)

 クロウが見ていたら胸を撫で下ろしたであろう事に、モローの話はそれ以上深く掘り下げられる事無く、王女とカールシン卿の会話は次の話題に移った。シャルドについてである。

 ……クロウの危難はまだ終わらないようだ。



「残念ながら、発掘現場の視察は許可されなかったわ。足場が悪く危険だという理由で」

「まぁ、予想できる結果ではありますな」



 封印遺跡の所在地シャルドで、それより昔の古代遺跡が発掘されている最中であると聞き、発掘現場の視察を申し出てみたようだが……さすがに叶えられる事は無かったようだ。国際関係に(かんが)みても、健全な良識というものである。



「それにまぁ、見たところで()して面白いものではありませんよ。単に穴を掘っているだけですのでね」

「……卿は見た事があるのかしら?」

「以前シャルドを訪れた時、遠目にでしたが」



 昨年の十一月にイラストリアへ入国したカールシン卿は、王都へ向かう途中にシャルドの町にも立ち寄っていた。シャルド到着の翌日には、イラストリア王国軍の護衛に守られて王都へと向かったのだが、その僅かな滞在時間にも、発掘地を遠目に観察する程度はできており、内心で奇異の念に打たれていた。


 クロウのように二十一世紀日本人としての感覚と認識に(かんが)みた場合、遺跡の発掘現場というのは、そこまで珍しいものではないかもしれない。しかし、少なくともこの時代のこの大陸にあっては、〝遺跡の発掘作業〟というのは極めて珍しい……と言うか、極めて例外的な行為であった。

 (そもそも)の話として、大昔の人間が使っていた土器や石器の欠片(かけら)など、掘り出して有り難がるような酔狂人などそういない(稀にはいる)。そんなものを掘り出したところで、何の役にも立たないではないか。学術的価値がどうこうと言っても、()うに過ぎ去った大昔の事など、知り得て何になると言うのだ。道楽者の好奇心を満足させるだけであろうが。


 ……というのが、こちらの世界の常識的な感覚というものであり、それはモルファンも例外ではない。当然、国を挙げての発掘作業など、行なわれる訳も無い。


 シャルドがその奇特な例外となったのは、出土したのがお粗末な石器などではなく、〝金銀財宝〟の名に相応(ふさわ)しい〝お宝〟であったためである。

 しかもその後にイラストリアは、どういった経緯(いきさつ)があったものか、「封印遺跡」などという常識破りの代物まで発見してのけた。

 それに改めて触発されたのか、長らく発掘作業が中断されたままになっていた「古代遺跡」の方も、新たな発掘が進められるに至っている。


 要するにこれらの全てが、他郷からの客にとっては珍しい光景であったのだ。

 で、あるからして、(くだん)の発掘作業の光景というのは単に〝大人数で穴掘りしているだけ〟なのであるが、同時にそれは〝とんとお目にかかった事の無い〟珍光景でもあった訳だ。

 だが……そんな事を王女に言って、再度の興味――野次馬根性とも言う――を掻き立てる訳にもいかない。寝た子は起こさず寝かせておくに限る。


 ――なので、カールシン卿の情景描写を聞いたアナスタシア王女は、残念とも何とも言いかねる複雑な表情を浮かべるに留めた。それに……



「……まぁ、その代わりという訳ではないけど噂の『封印遺跡』の方は、一般に公開されている部分だけでも見せてもらえたから」

「ご覧になって、如何(いかが)でした?」

「そうね……興味深い体験だったわ……」



 なぜか遠い目をして答えた王女に、(つか)()カールシン卿は(いぶか)しみの視線を向けたが、その疑問も()ぐに氷解する……王女(みずか)らの発言によって。



「世の中に……あんなにたくさんのエルフがいるなんて……考えた事も無かったわ……」



 〝ノンヒュームの文化を学びに来た身として、シャルドの封印遺跡は()()でも見ておきたい。何とかご配慮願えないだろうか〟――という王女サイドの要請に対してイラストリア側は、〝まだ内部の安全性が確保できていないので、一般公開している部分でよければ〟――という条件を付けた上で許可を出した。その事自体は大いに喜ばしい話であったが、



〝日中はとてもではないが時間が取れないので、視察は早朝にお願いしたい〟



 ――という回答には一同首を(かし)げる事になった。〝時間が取れない〟というのはどういう意味か? こちらとしては、視察にそこまで時間を取るつもりは無い。アナスタシア王女に至っては、〝何なら一般人に混ざって見学してもいい〟などと口に出したくらいである。……まぁ、さすがにこの案は却下されたが。


 内心で幾分か首を(ひね)りつつも、王女一行は早朝に一般公開部分の視察に(おもむ)いた。()たり(さわ)りの無い部分を見せられているようだったが、それでも何しろ規模が大きいだけあって、見るべき箇所は幾らでもあった。圧巻は謎の魔法陣(笑)を刻まれた「封印の扉」であろう。魔法陣に書かれている文字は、国内外の有識者たちが雁首(がんくび)(そろ)えて(さじ)を投げたほど難解な代物らしい(笑)。

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― 新着の感想 ―
[一言] >魔法陣に書かれている文字は、国内外の有識者たちが雁首揃えて匙を投げたほど難解な代物らしい(笑)。 (笑) としかいえないっすなぁwww
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