第二百八十章 シアカスター 4.モルファン王女公邸~モロー回想~(その3)
クロウの黒歴史が再び俎上に載せられます。
話の着地点が不穏な色合いを帯びてきそうな、そんな漠とした不安を感じたのか、王女の口数も少なくなっていた。
が――そんな事に頓着する素振りも見せず、カールシン卿は言葉を紡ぐ。そしてその説明の先に、
「ここで問題になってくるのが、モローの南に発見されたシャルドの遺跡です」
「――え?」
シャルドという思いがけない単語が飛び出して来た事で、王女も思わず声を上げた。
「彼の地には大昔、人とノンヒュームが手を取りあって栄えた大都市があった由。ならばその遺産のようなものか、或いは人知れぬ地脈のようなものが、彼の地にはあったのではないか。そしてその一部が――」
「モローにも伸びているのではないか……という訳?」
「少なくとも、その可能性は無視できないかと」
確かに気宇壮大な仮説であるが、どちらかと言うと与太噺の方に近いだろう。証拠とまでは言わないが、せめて何らかの根拠が無くては――
「状況証拠のようなもので宜しければ」
「あるの――!?」
「些かあやふやなところはありますが、確認された事実が二点」
曲がりなりにも根拠のようなものがある――という事実に、アナスタシア王女は驚きと興奮を隠せない。お勉強三昧の退屈な日々が続くものだと思っていたが……どうやら、この国は色々と興味深い謎を隠し持っているようではないか?
……そろそろ「中二病」を患う年齢に達した王女は胸の高鳴りを抑え、務めて冷静――註.本人主観――に続きを促す。二つの証拠とはどういうものだ?
「まず第一。三年ほど前にモローの町外れで、巨大な魔石の宝玉を発見した者がいるそうです」
「魔石の宝玉!?」
王女が頓狂な声を上げたが、もしもこの場にクロウがいたら噎せ返っていたであろう。封印したはずの失態の記憶、あれがこんなところに繋がって来ようとは。
「拾った者が王都の素材屋に持ち込み、そこで発覚したそうです。尤も、その者は宝玉を売る事はせずに、そのまま立ち去ったそうですが」
「そう……そんなものが……」
だったら自分にもひょっとしてチャンスが――などと考えているのを気付かれたのか、
「あぁ、その話が広まって以来、多くの者が鵜の目鷹の目の蚤取り眼で宝玉を探し廻ったそうですが、遂に二個目を見つける事はできなかったそうです。なので、その男が出任せを言ったのではないかという意見が強かったようですが……」
「……『双子のダンジョン』の出自を考える場合、改めてその話が引っ掛かってきた……というところかしら?」
「ご賢察、恐れ入ります」
「お世辞はいいわ。二つ目というのは?」
「モローの町とは些か外れた場所で、二度に亘ってドラゴンの咆吼が確認されたとか。あの辺りがドラゴンの通り道になっているか、もしくは……」
「……何か、ドラゴンを惹き寄せるものがあるんじゃないか――って事?」
「御意」
……クロウにとっては些かどころでなく具合の悪い流れが来ようかとしていた。




