第四十二章 アクセサリー騒動 ~第一幕~ 3.アクセサリー作製法
このネタはまだまだ続きます。
原石の入手の目処が立ったため、俺たちは次の問題点の討議に移った。
『素の丸玉をアクセサリーに仕立てる方法だが、まず第一に丸玉を台座に留めなくちゃならん。さもなきゃ、丸玉に穴を開けて紐を通す事になる。首飾りなんかはこっちだな』
『石に穴を開ける方が難しいんですよね?』
『ああ、水晶は結構硬いしな。できたら村人――というかホッブさん――に加工してほしいから、特別な道具が必要となる加工法は避けたい』
『となると、台座に留める方向で検討する必要がありますな』
『石を留めるにはどうするんですか?』
『よく使われるのは石座だな。石に合わせた大きさの台座で、周囲の爪を折り曲げて石を保持する。指輪なんかは大概これだな。ちなみに、石座は大抵金属製だ』
『金属製……の石座は……この村では……調達が……難しいです』
『石座以外だと……金属のワイヤーを巻き付けて保持する方法があるが、こっちではその手の針金ってあるのか?』
ふと疑問に思ったので聞いてみたが、針金自体はあるようだ。銅や真鍮の素材を丸太などに開けた穴に通し、引っ張り伸ばして伸線に加工するそうだ。近来は水車の力で引っ張るようだが、そのへんは地球世界と同じだな。ただ、そうやって作った金属ワイヤーがアクセサリーに使われる事は少ないようだ。金線や銀線も作られている筈なんだが。こっちの世界、あるいはこの国のトレンドってやつなのか? ブローチなんかは彫金で作る事が多いらしい。
『ふむ……アクセサリーの購入者は主に上流階級、せいぜいが中流階級までか。庶民のためのアクセサリーはほとんど無いようだな』
『そもそも庶民にはアクセサリーを買うような余裕はありませんからな』
『あぁ、それでこの村の女性たちがあんなに食いついたのか……うん? エルギンの町の素材屋は、高価過ぎない石の方が需要があるような事を言っていたが?』
『石のランクを落とす事で、中流向けの価格で売っているのでは?』
なるほど、そういう事か……。
『まぁ、俺が作るならワイヤーアクセサリーが簡単だな。日本でなら道具も材料も買えるんだが……こっちの世界だと入手が難しいか』
『マスターの世界の材料を使うのは、大丈夫なんですか?』
それなんだよなぁ……。
『ますたぁ、錬金術はぁ?』
あ……錬金術の素材変形か。
『……できそうだな。それでいくか』
錬金術師ならこの国にもいるし、それほど不審には思われないだろう。
斯くして、俺が作る分には、どうにかなりそうな目処が立った。問題はホッブさんだが……。
『ワイヤーとやらをご主人様が提供なさるのなら問題ないのでは?』
『それでもいいんだが、技術の間口を広げる意味で、他の作成法も検討したい』
村の中で作るのなら使える素材は限られる。木か、せいぜい牙――象牙みたいな素材があればだが――くらいのものだろう。石台でなくブローチに埋め込むようにして作ればいいか。
『ご主人様……エルフたちは……どうやって……いるんで……しょうか?』
あぁ、そう言えばエルフにも丸玉を売ったな。……ホルンに聞いてみるか。
で、ホルンに連絡を取ったところ、向こうは向こうで大変だったらしい。俺との唯一の連絡員であるホルンへの圧力は凄かったらしく、通信の魔道具から聞こえてくる声には、およそ気力というものが無かった。気の毒に。
『……それで、恐縮ながら丸玉の追加入手は可能でしょうか?』
『ああ、何とか原石は入手したから、追加で幾つか渡せるぞ。大きさなんかはあれでいいのか?』
そう聞くとホルンは絶句し、やがて答えたところでは……
『……大きさの指定については聞かなかったことにします。精霊使い様のご都合のよいサイズをお持ち下さい』
まぁ、いちいちサイズの注文まで取ってたら、ホルンも大変だろうしな。
『判った。少し先になるが、色やサイズを違えたものを幾つか持って行く。それで、今度はこっちから聞きたいんだが……』
エルフの女性たちがどういう風に丸玉を加工したのか聞いてみると、一番多かったのが首飾り。穴を開けたわけではなく、魔術で金具を埋め込んだり、細い金糸を籠のような形に編んだ中に丸玉を入れたりしたらしい。ブローチや髪飾りの場合は光沢のある木材を加工した台に埋め込んだり、細いが丈夫な蔓を編んだもので丸玉を囲んで固定などもしたようだ。エルフは手先が器用で、細工に長けているとは聞いたが、想像以上らしいな。委託の形で細工を頼む手もあるか?
あ、ホルンからはドラゴンの骨製ナイフの追加注文も受けた。まだ、骨の欠片が少しばかり残っていたから、幾つかの追加はできるだろう。
もう一話投稿します。




