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第二百八十章 シアカスター 2.モルファン王女公邸~モロー回想~(その1)

「時に、道中は如何(いかが)でございましたか?」



 微妙な雰囲気となってきたのを振り払うかのようにカールシン卿が話題転換を図ると、それに乗るかのように王女が言葉を返す。



「えぇ。色々と面白いものが見られたわ。……モローの『双子のダンジョン』とかね」



 ……(とし)()もゆかない王女の口から出る言葉としてはどうだろうか――というような感興は、カールシン卿の脳裏に浮かぶ事は無い。祖国にいる頃から、アナスタシア王女殿下の為人(ひととなり)については()く聞き知っている。

 幼い頃からやんちゃで活溌、花束よりも剣を手に取る事の方が多いと評判の王女殿下だ。ダンジョンに関心を抱かれるなど当然の事。(むし)ろ、エルギンで贈られた「エッジアン・クロス」に興味を持たれたと聞いて、そっちの方に驚いたくらいだ。



「確かに。……自分も少し調べてみたのですが、あの『双子のダンジョン』については、色々とおかしな事が多いようです」

「えぇ。確かにおかしなダンジョンだったわね」



 名立(なだ)たる冒険者のパーティ――「勇者」パーティ含む――を次々と返り討ちにした凶悪ダンジョンの入口に見物人が殺到していたのも、ダンジョンがそれを我関せずと容認していたのにも呆れたが、



「〝ダンジョンマスターからの警告の立て札〟だなんて……わたしはダンジョンに詳しい訳ではないけど、たぶん前代(ぜんだい)()(もん)ではなくて?」

(おお)せのとおりにございます」



 エルギンの町を出立した翌日、王女一行はモローの町に投宿していた。少し前までは廃墟の如く(さび)(すた)れていたという割には(にぎ)わっており、その理由が何と近くにある「ダンジョン」観光だと聞かされた王女は、持ち前の好奇心を()(かん)()く発揮して、その見学に(おもむ)いたのである。

 そこで、ダンジョンの入口を取り囲むようにして見物している観光客にも驚いたが、それ以上に驚かされたのが、クロウによる〝関係者以外立ち入り禁止!〟の高札であった。一体全体どこの世界に、ダンジョンへの侵入禁止を布告するダンジョンマスターがいるというのだ。しかも、そこで聞いた話では、



「ダンジョンマスターが関知していなかった抜け穴から潜り込んだ子供を、無事に帰して寄越(よこ)したんでしょう?」



 血も涙も情けも知っている人道的なダンジョンだというので、民間での人気は鰻登りらしい。以来、噂を聞いて押し寄せる観光客が引きも切らないのだとか。

 ……どこか色々と間違っている気がする――ちなみに、モロー当局も冒険者ギルドも同意見――が、事実は厳然として事実である。



「ダンジョンマスターが何を考えているのか知らないけど……色々とおかしなダンジョンなのは、確かに間違いの無いところね」



 ただ、この一件から判明した事実として、少なくとも「還らずの迷宮」には、ダンジョンマスターが存在する事が確実となった。

 しかし……モローの「双子のダンジョン」に関する不審さ不可解さを、全て〝ダンジョンマスター〟のせいにできるのかというと……



「そうは思えないというのが、事情に詳しい者たちの一致した意見でして」

「そうなの?」



 ダンジョンに関する諸事情を全て管轄しているのがダンジョンマスターなのだと思っていたが、どうやら実情はそれとは違っているらしい。


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