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第二百八十章 シアカスター 1.モルファン王女公邸~公邸到着~

 エルギンの町を発って八日目、アナスタシア王女の一行はシアカスターの町に到着していた。



「まさか公邸がシアカスターに用意されるとはね……予想外だったわ」

「一般的な規模の屋敷なら、王都でも確保できたそうなのですが……」



 ……そう。常識的な人数を収容するだけの屋敷なら、王都イラストリアでも――簡単ではないにせよ――確保する事はできた。

 それが上手くいかなかったのは、一に懸かって〝収容人数〟の多さにあった。美酒と甘味の桃源郷たるイラストリアへの出向任務と聞いて、我こそはと名告(なの)りを上げた亡者たちが多過ぎたのである。

 その有様に激怒した外務卿が、(しゅく)(せい)的とも言えるような辣腕(らつわん)を振るった結果、かなりの人数が()()とされたのであったが……それでもなお、過去最大級と言えるほどの人数が同行する羽目になったのである。


 ……〝通例の〟規模の屋敷に収まりきれる筈が無い。


 〝酒と甘味の亡者どもは野宿〟――という案も(おお)真面目(まじめ)に検討されたし、亡者たちはそれでも文句は垂れないのではとも言われたが、大国モルファンの(メン)()に賭けてもそんな真似ができよう筈も無く……途方に暮れていたところで、先行してイラストリアに入っていたカールシン卿から耳寄りな献策が寄せられる。


 ――〝公邸の所在地をシアカスターにするのなら、必要な敷地を何とか確保できる〟


 これが天恵でなくして何であろうか。


 モルファン当局は即座にこの案を了承。と同時に、公邸の場所がシアカスターだと知れたら、更なる混迷を招くは(ひつ)(じょう)であるとして、厳重な情報秘匿を決め込んだのである。


 その結果――



〝まさか公邸がシアカスターに用意されるとはね……予想外だったわ〟



 ――と、アナスタシア王女が呆れる事になっているのであった。



「まぁ、そういった事情なら(いや)(おう)も無いけど……王都に詰め所が無いというのは、少しばかり不安ね」



 留学という名目でイラストリアにやって来ているアナスタシア王女は、学院――正式名称はイラストリア王国王立講学院――に在学中は寮で暮らす事になっている。

 この学生寮は代々王侯貴族の子弟を受け容れてきた場所であり、大国モルファンの王女であっても、不便不如意を感じさせないようになっていると聞く。


 だが――それはそれとして、学院のある王都にモルファンの公邸が無いという事には、少しばかり心細さを感じずにはいられない。



「いえ、確かに公邸はございませんが、()(しょう)このヴィルコート・カールシンの住まいを、イラストリア側が用意してくれました。公邸に較べるとささやかなもので、アナスタシア殿下にはご不満もございましょうが、王都における(かり)()めの拠点としてお使い下さい」



 しかし――そんな事情はイラストリアでも承知していたようで、モルファンの特使であるカールシン卿に対して、王都内に(しか)るべき屋敷が用意されていた。

 確かに、公邸の代わりが務まるほどの規模ではないが、一時的な滞在場所としては充分なだけの格式を備えている。王女とて文句は言えないだろう。



「そう……本当にイラストリアには頭が上がらないわね」

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