第二百七十九章 ダンジョン乱麻譚~第二幕~ 6.クロウ~〝サウランド・ダンジョン(仮称)〟~
さて――イラストリア国王府が発案(笑)した「サウランド・ダンジョン仮説」は、王都の冒険者ギルドを通じてサウランドのギルドにも通達され、そこから密やかに冒険者たちの間に即日で広まっていった結果……
『サウランドに未知のダンジョンがある? 確かな話か?』
サウランドの町に展開する精霊たちの諜報ネットワークを通じて、クロウの耳にまで届いていた(笑)。
『ダンジョンマスター友の会では、そんな話は出なかったが……』
『さぁ……とにかくそういう噂があるみたい』
以前に〝ダンジョンマスター友の会〟――と、クロウは呼んでいるが、イラストリア国内のダンジョンマスターたちの互助会のようなもの――の面々を召喚……もとい、招聘して、ダンジョン及びダンジョンマスターについて基礎的なレクチャーを受けた――註.クロウ視点――際には、サウランドにダンジョンがあるなどという話は出なかった。
なのでクロウも不審に思って確認してみたのだが、訊き返されたシャノアにしても、精霊たちが聞き込んだ噂話を報告しているだけなのだから、内容の真贋について答えられる筈もない。
クロウもそれは理解したらしく、この場でシャノアを追及するような真似はしなかったのだが……
『ふむ……火の無い所に煙は立たないと云うからな。噂があるというなら、その噂のタネくらいはあるんだろう』
――と、とりあえず真摯に報告を受け容れたものだから……
『……ダンジョンはともかく、精霊門に適した場所くらいはあるのかもしれんな』
……話はおかしな方向に転がり出す。
大体〝火の無い所に〟などと言っているが、その〝火〟というのが何かと言うと、嘗てクロウの指示の下に「ピット」のモンスターがグレゴーラムの兵士を襲った事を指しているのだから、これは鏡に映った己が姿に吠えかかる犬のようなものである。
しかし――とクロウは考える。
件の国境の森は、イラストリアでも指折りの交通の要衝・サウランドにほど近い位置にある。という事はつまり、サウランドにあるであろう冒険者ギルドからも近い筈。現地の冒険者がその〝未発見のダンジョン〟とやらを見つけられなかったのはなぜなのか。
答は〝そんなダンジョンなど無いから〟――というものである筈なのだが……運命を弄ぶドラマの悪魔は、ここでもう一つの解を用意していた。
『確かあそこの森って、冒険者たちはあまり入らなかった筈よ』
『何? そうなのか?』
『うん。何でも、三国の国境が接しているせいで、色々とややこしいんだって。人間たちは〝分け入らずの森〟――って呼んでたと思う』
『〝分け入らずの森〟……成る程、そういう事か』
――そうなのだが……違う。
件の森にあまり冒険者が立ち入らないのも、その理由についても間違ってはいないが、それは〝ダンジョンが発見されていない〟理由ではない。
ないのだが……その説明が充分な説得力を有していたのも事実であった。単に真相ではないだけだ。
『グレゴーラムの馬鹿どもが、越境盗伐なんて馬鹿な真似をやらかしたところだしな。又候おかしな真似をしでかさんとも限らんし……もしも適地があるのなら、監視所程度のものなら造ってもいいかもしれん。……サウランドの町が近いし、大規模なダンジョンは難しいだろうがな』
瓢箪から大きな駒が飛び出ようかとしていた。




