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第二百七十八章 リーロット発諸方面行き迷走便 14.ニル~冒険者ギルド~

「何だと? イラストリアの兵隊が?」

「えぇ。北街道……特にグレゴーラムに出たというモンスターの話を中心に、色々と訊き込みをしている様子です」



 ニルの冒険者ギルドのギルドマスターは、リーロットへ派遣していた冒険者たちからの聴き取りの結果について報告され、その内容に顔を(しか)めていた。



他所(よそ)(もん)からの訊き取りをすんなぁ兵隊の仕事っちゃ仕事なんだが……何で今になって訊き取りをおっ始めるんだ?」



 リーロットでの(おお)()(しん)は、昨日や今日に始まった訳ではない。出稼ぎ人への訊き取りは、イラストリアだって早いうちに済ませている筈だ。なぜ今頃になって――と、どこかで聞いたような疑問を覚えるギルドマスター。

 ただ、この時のギルドマスターには、その解答らしきものが与えられた。



「それなんですが……少し気になる噂が流れています。グレゴーラムでの、あの(・・)一件に関する噂なんですが……」



 そう言って職員の男が報告したのは、ウォーレン卿が画策して流した、あの「サウランド・ダンジョン仮説」であったから、聞かされたギルドマスターも鼻を鳴らすしかできなかった。



「つまりあれか? サウランド近くの森にダンジョンがあるって噂を訊き込んだもんだから、気になってあちこちに訊き廻ってる――ってか?」

「状況はそれを示唆しています」

「ふむ……」



 ――事実はそれとは違っており、グレゴーラムの出現したというモンスターの噂でテオドラムの住人が揺れているという話を訊き込んだイラストリアが、①噂の真偽についての情報を集め、②ついでにテオドラムを牽制するために「サウランド・ダンジョン仮説」をでっち上げたのだが……実際の前後関係が明らかになっていない状況では、先述のような誤解が生まれる余地は充分にあった。

 また、(くだん)の「サウランド・ダンジョン仮説」の流布(るふ)を仕組んだ連中が、情報操作に()けていた事も、このような誤解を招く事に寄与していた。



「マジかよ……国境の森にモンスターが巣喰ってるって噂は、テオドラムの連中の妄想じゃねぇかって思ってたんだが……」

「仮説の整合性に(かんが)みた場合、()(ゆう)・妄想の(たぐい)とばかりは言えなくなってきました。充分にあり得る話かと」

「イラストリアが気にすんのも当然――ってか」

「まぁ、肝心のテオドラム国民の方は、未だに半信半疑といったところのようですが」



 そう言って男が開陳に及んだのは、既にダールとクルシャンクが訊き込んだのと大差無い話であった。



「あー……現実にモンスターに襲われた実績が無ぇもんで、住んでる連中も半信半疑って訳なのか」

「その一方で、グレゴーラムの『鷹』連隊が襲われて壊滅的な損害を出したのも事実なら、この仮説が状況を整合的に説明できるのも事実です。軽々に切って捨てる訳にはいかないかと」

「だよな……」



 はてさて一体どうしたものかと、(しか)(つら)で考え込んでいたギルドマスターであったが……今の事態がそう捨てたものでもない事に気が付いた。

 図らずもテオドラムからの依頼の一部――国境の森周辺のモンスター分布についての情報収集――は果たした事になる訳だ。得られた結果がテオドラム上層部のお気に召すかどうか、それについてはまた別の問題である。ただ……



「これは飽くまで仮説ってやつで、確認された事実じゃねぇ訳だ」

「住民も頭から信じてはいないようですし」

「つまり……前にも増して状況の確認が重要になったって事だ」

「住民の反応を探る依頼……なんてのも出されそうですね」

「あぁ。しかし、現地調査の方はともかく、住民感情を探る依頼ってのは……下手をすると、(くすぶ)ってる火種を()(おこ)すような事になりかねん」



 クロウなら〝寝た子を起こすような真似〟と表現したであろう。

 しかし、表現の仕方は別として、ギルドマスターの懸念も(よし)無しと切って捨てる訳にはいかない。下手な訊き込みが住民の好奇心を(あお)り、北街道の延伸工事が敬遠されるような事態になったらどうするのか。



「ま、そこら辺はお上が考えるだろうけどな」

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