第二百七十八章 リーロット発諸方面行き迷走便 11.ニル~冒険者ギルド~(その2)
何やら言いたげにこちらを伺うギルドマスター。強面のオッサンに上目遣いなどされても、可愛げなど出て来る訳が無い。ともあれ、職員の男はギルドマスターが切った言葉の後を引き取る。
「……今後同じ轍を踏まぬ為に、ニルの監視能力を確認、できれば強化しておきたい……と、いうところですか?」
「そうらしい。それに絡んで国境沿いの森に、どんだけのモンスターが棲み着いてんのか。そいつも確認しておきたいらしい」
凶行の現場はグレゴーラムに近いので、「グレゴーラムの冒険者ギルド」が対応するのが筋なのだろうが……
「グレゴーラムはテオドラムが肝煎りで建てた城塞都市でしょう。冒険者ギルドなんかありませんよ?」
モンスターは無論、薬草とて採れるかどうか怪しいような場所で、しかも屈強の兵士が詰めている場所。採集依頼も護衛依頼も見込めないような場所に、冒険者が居着く訳も無く、必然的に冒険者ギルドも存在する訳が無い。
「――で、ニルにお鉢が廻って来たという訳ですか」
「そういうこった」
成る程、テオドラムがニルへの梃子入れを考えているらしい事、そういう思案に至った経緯については理解できた。しかし――
「中央街道はそれにどう絡んでくるんです?」
〝中央街道の整備自体は先の話〟だと、先ほどギルマスも言ったではないか。今になってあの話が蒸し返される、そんな必然性がどこにある?
「まぁ聞け。ニルにお鉢が廻って来たってもな、肝心の冒険者の手が足りてねぇ」
「あー……リーロットへの護衛依頼ですか」
新年祭の前から続くリーロット特需。出稼ぎの人数が多いという事は、そこにそれ相応の商機も発生する訳で、目敏い商人たちもまたリーロットを目指す事になっていた。況してその後は新年祭の本番、そこから五月祭の準備と続いて、今はその五月祭が目前である。人・物の移動が酣となっている現在、当然そこには護衛依頼も発生する訳で……
「五月祭に向けて、冒険者どもは挙って出払っちまってる。国境筋の森の調査なんて依頼を出しても、引き受けるやつがいる訳ゃあ無ぇ」
「せめて五月祭が終わってからでしょうね、できるのは」
「あぁ。と言うか、それだって怪しいもんだ。五月祭の後も、リーロットじゃ町の整備が続くらしいからな。ま、規模は縮小されるみてぇだが」
「リーロットがあそこまで大きくなった以上、本格的な商流が発生するでしょう。その上に北街道の整備と来れば、ここニルの重要性も増す事になる。マルクトの商人たちも、下見に来ているみたいです」
リーロットだけでなくニルへの流れまでが加速するとなると、護衛の依頼も当然増える。地味で実入りの悪い、しかも危険があるかもしれない調査依頼など、受ける冒険者がいるかどうか。
「その辺りの事ぁ、儂からもとっくり詳しく、かつ丁寧にご説明申し上げたんだがな。テオドラム上層部が仰るには……」
だったらとりあえず、現状で人・物が流れている街道筋だけでも、簡単な調査を実施しろという事になったらしい。
「そこで中央街道が出て来る訳ですか……」
「あぁ。あちこちの村々からも人は動いてる訳だが、やっぱり流れがデカいなぁ中央街道だからな」
「まぁ、護衛がてら道々の状況を観察するぐらいなら、引き受ける者もいるでしょうね」
「ま、ニルからリーロットまでの状況を見てくるだけでも充分だ。何ならリーロットへやって来るやつらから、イラストリア南街道の状況まで訊き込んどきゃ、街道筋の調査も一部は遂行できる。やらねぇ理由は無ぇだろう?」
「そうですね」




