第二百七十八章 リーロット発諸方面行き迷走便 9.リーロット【地図あり】(その2)
――マルクトの手前からやって来た者の話――
「さて……抑だ、そんな工事がされんのか?」
「眉唾だってのかぃ?」
「マルクトからニルまでの間は――大昔はどうか知らんが――儂の曾爺さまの代からこっち、モンスターが現れたって話は聞かねぇ。お上が街道を整備するってのも、ま、納得できる話だわな。けどなぁ……グレゴーラムにモンスターが出たってなぁ、そのお上が言ってる事なんだろう? ヤバいと判ってる場所の近くに、街道なんか整備すんのか?」
「……つまり?」
「本当にヤバいんなら工事なんかされねぇだろうし、工事がされるってんならヤバかぁねぇって事なんだろうよ」
――ニルを拠点とする冒険者の話――
「大体だな、北街道の整備に兵隊を使わねぇってのが腑に落ちねぇだろうが」
「しかし、そのお蔭で冒険者にも護衛の依頼があるんじゃないのか?」
「ま、そりゃそうなんだが……大体、軍の連中は、冒険者を使い捨ての駒みてぇに見てる節があるからな」
「ほぅ……何か焦臭い話でも?」
「だから……さっきも言ったように、工事に兵隊を使わねぇって話だ。ありゃ、ヤバい場所に兵隊を投入して損耗すんのを嫌ってんじゃねぇのか? だとすりゃだ、街道工事の現場ってなぁつまり、兵隊が損耗するほどヤバい場所って事になるだろうがよ」
「成る程、理屈だな」
「だろう?」
「つまり……軍の参加が無い場所の工事には……?」
「あぁ、参加しねぇ方が無難だろうな」
――護衛仕事にやって来たレンヴィルの冒険者の話――
「あぁ……中央街道の話か? 確かに、北街道をグレゴーラムまで延ばすより、中央街道を整備するのが先だ――って話はあるな。けどなぁ……」
「あ? 何か問題でもあんのかよ?」
「いや……俺も詳しくは知らんのだが……中央街道で何かあったらしいって噂があってな。……ここだけの話だぞ? そんな噂を口にしてるだけで、国軍の連中にしょっ引かれるって話もあるんだ。……でな、何か知らんが、止ん事無いお偉方は、中央街道に手を入れるのに及び腰って話があってな」
「……で? その代わりに北街道を――って話になったってのか?」
「本当かどうかは知らんぞ? そういう話があるってだけだ」
――グレゴーラム西方の村から来た者の話――
「いや、国境の森にはウチの村からも、薪や何かを取りに行くけどな。……あんたらの前で言うなぁ気が引けるんだが……ま、背に腹は代えられないってやつだ」
「あぁ、そっちの事情も薄々は聞いている。気にせず話を続けてくれ」
「んじゃ……お言葉に甘えて話を戻すとだな、境界のテオドラム側にゃまともな木なんざ生えてやしねぇんだ。だもんで、モンスターなんざいる訳が無ぇ。いるとしたら、イラストリア側の筈だ。……でな、そっち側でモンスターがめっかってねぇってんなら、こっち側に出て来る訳が無ぇやな。モンスターにだって居心地が悪いだろうからよ」
「つまり……北街道の工事をニルの東に延ばしても、モンスターが襲って来る虞は無い?」
「いや、そうとまでは言わねぇけどよ。少なくとも、国境の森にモンスターが常駐してるってなぁ、ちと無理筋じゃねぇのか?」
・・・・・・・・
「……思った以上に住民の意見が錯綜してるな」
「ったく……聞かされた話たぁ大違いじゃねぇかよ。どうすんだ?」
「どうもこうも、俺たちは出稼ぎの連中から話を訊き出して、それを報告するまでが仕事だ。そこから先で頭を痛めるのは、お偉いさんたちの仕事だろ?」
「ま――そりゃそうか。だったら……?」
「あぁ。とっとと報告してズラかるぞ。通信機の具合も好くないようだしな(笑)」
「……おぉ、そのとおりだよな。いつ壊れるか判んねぇんだ。急いで報告だけしなくちゃな♪」




