第二百七十八章 リーロット発諸方面行き迷走便 8.リーロット【地図あり】(その1)
上司の無茶振りで飛竜に乗せられ、寒空を飛んでハイラント高原の第四大隊駐屯地へ。そこから更に雪道を馬車で強行軍する事六日、漸うの事でリーロットへ辿り着いた一行の中に、
「全く……ウチの大将は俺たちに怨みでもあんのかよ!? 去年、大陸を四半分も駆けずり廻されたかと思やぁ、今度ぁ寒空の下を強行軍。俺たちゃこれでも兵隊であって、御用聞きじゃねぇんだぞ!」
「ぼやくなクルシャンク。訊き込みが終わればリーロットで五月祭を楽しめる、そういう確約をもぎ取ったんだからな。さっさとお仕事を済ませて、後はのんびり骨休めと洒落込むぞ」
……既にお馴染みとなった貧乏籤コンビ、ダールとクルシャンクの姿があった。
彼ら二人の表向きの任務は、モルヴァニアの依頼を携えて来た外務と商務の若手官僚の護衛――という事になっている。
依頼を届ける先は「緑の標」修道会なのだが、彼らの雇用主たるリーロット当局に何の断りもなく通達するのも角が立つので、まずはリーロットの当局に面会して事情を説明、然る後に修道会に紹介してもらう――という手順を踏む必要がある。護衛という事になっている二人もその間は傍を離れる訳にはいかず、本来の密命である〝出稼ぎに来ているテオドラム国民からの情報収集〟は、その後からという事になった。
何だかんだでこういう訊き込みに慣れてきた二人の事、首尾好く訊き込みには成功したのだが……
「……おぃ、何だか聞かされた話と違やしねぇか?」
「あぁ、報告が面倒臭くなりそうだな」
……二人が訊き込んだ内容は、出発前にレクチャーされたような単純なものではなかったのであった。
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――ニルの東方に住まう住民の話――
「あぁ、グレゴーラムの件な。ありゃ、霧に怯えて同士討ちしたのをモンスターのせいにしてんだ……って話もあったっけな」
「霧に怯えて? ……一丁前の兵隊がか?」
「あぁ。実際のところどうだったのか、詳しい話は判らねぇぜ? 役人どもが直ぐに口止めしたみてぇだからな。……けどよ、実際に霧に怯えた兵隊に矢を射かけられたって話を、俺はこの耳で聞いたからな」
――ボーデロット(ボーデ)近くの村からやって来た者の話――
「いや、曾々祖父さんのずっと前から、これまで北街道筋にモンスターが現れたなんて話は無かったんだ」
「……グレゴーラムの兵隊が襲われたって噂だが?」
「あぁ、その噂だけだ。その話だって眉唾じゃねぇかって話、あんたらもその耳で聞いたんじゃないのか?」
「あぁ……まぁな」
「大方な、ボーデの村で木立を伐り払ったってのも、その噂にブルっちまったせいじゃねぇのか……って、俺らの村じゃその話で持ち切りだったな」
「根も葉も無い噂に怯えたせいだと?」
「あぁ……まぁ、ブルっちまったってのは言い過ぎかもな。けど、万一そんな事があったとしたら、お上から吊し上げを喰らうのはそこの小役人だろ? そうなるくれぇならその前に……って、考えたやつがいるんじゃねぇのかな」
「責任を追及されるのを嫌った訳か……」
「ま、ボーデの連中にゃ災難だが……そこまでの事ぁ小役人も気にしちゃくれねぇだろうからな」
「……モンスターが出るという話がデマだとしたら、北街道をグレゴーラムまで伸ばす工事があれば受けるのか?」
「あぁ……まぁ、金次第だな。それと時期か。畑仕事が忙しい時期に呼ばれても、引き受ける事ぁできんからな」




