第二百七十八章 リーロット発諸方面行き迷走便 5.クロウ~モルヴァニア西街道緑化計画~(その3)【地図あり】
『そこで話は最初のところに戻るんだが……モルヴァニアは何を考えている? 俺たちに対する含みは無いとしてだ』
改めて口に出し、一同を見回すクロウだが……どこからも返って来る答は無い。
抑この件では、最初からおかしな点が目白押しなのだ。今、その不審点を並べて挙げてみると、
・モルヴァニアはどこから修道会の事を知ったのか?
――これはこれで気になるところだが、それを措くとしても、
・なぜ、道路の緑化を必要としているのか? 緑化について調べているうちに、修道会の事を知ったのか?
・なぜ、他の街道ではなくあの街道を緑化する必要があるのか? 試験施工の場所としても、他にもっと適地がありそうではないか。
・なぜ、今なのか? 急いでいるのはなぜなのか?
……などと、訝しい点がてんこ盛りなのである。
『……モルヴァニアの言い分を、そのまま鵜呑みにはできないの? クロウ』
『ヴォルダバンの行商人を誘致するという、あれか?』
シャノアの指摘に一旦は考え込んだクロウであったが、
『しかし、依頼を額面どおりに受け取るとなると……』
前に挙げた不審点以外にも、〝ヴォルダバンの〟行商人と指定しているのはなぜかという点が気に懸かる。
『抑、あの街道を利用しているのは――そんなやつらがいるとしてだが――どういった連中なんだ?』
クロウの問いかけに眷属たちは互いに、或いは魔導通信機の画面の中で顔を見合わせていたが、やがてその視線と注意はひとところに集まる事になった。
そう――少し前にアラドを探りに出ていたカイトたちである。
『……申し訳ありません。そこまで詳しくは探っていませんでした』
パーティを代表して、リーダーであるハンクが謝罪するが、これは言い掛かりのようなものであろう。
『いや、俺もそこまでは指示していなかったしな。責めるつもりは無い。……それに、モルヴァニアの言い分を容れるなら、〝梃子入れが必要〟という事は、〝今は〟然程に賑わっていないという事だろうからな』
クロウは自分が言い出した疑問を一旦引っ込めると、改めて先程の問いを言い直す。
なぜ、ヴォルダバンの行商人なのか? なぜ、マーカスの行商人ではないのか?
『……距離の関係か?』
『距離……で、ございますか?』
『あぁ。モルヴァニアが行商人を引き込みたい場所が、マーカスよりヴォルダバンに近い――とかな』
〝モルヴァニアが行商人を引き込みたい場所〟という考え方に至ったのは卓見であったが、生憎とその場所であるシュレクは、マーカス・ヴォルダバン両国との国境からほぼ等距離の場所にある。この方向に考えを進めても、正解に辿り着くのは難しいであろう。
――と、まさにそのタイミングで、別の視点からの物言いが付く。
ただし問題なのは……
『あの……ご主人様、マーカスは海に面していませんが、ヴォルダバンは一応海に面しています。内陸国のモルヴァニアが海産物や舶来品を得ようとするなら、マーカスではなくヴォルダバンの行商人に狙いを付けると思いますが』
……正解からはより遠離ったという事であろう。
『だけどハンスさん、モルヴァニアがそういった品物を欲しがるんなら、寧ろ王都への街道を整備するんじゃないですか?』
『確かに、それは言えますが……』
『……件の街道は、確かマーカスに通じておりましたな』
『待て。だとするとモルヴァニアの狙いは……』
『マーカスに海産物や舶来品を融通するため……?』
正しい事実を積み重ねた筈なのに、何やらおかしな結論が出そうになった事に、一同揃って微妙な表情を浮かべる。本当にこの方向に論を進めていいものか?
『……ヴォルダバン云々については暫く忘れて、〝行商人を招く〟という点に絞って検討するとしようか』
『とりあえずはそうした方が良さそうじゃの』




