第四十二章 アクセサリー騒動 ~第一幕~ 1.エッジ村への帰還
クロウが年末に残していった丸玉が、新たな騒ぎの火種となります。
春になってエッジ村に帰って来た俺を出迎えてくれたのは、懐かしい風の匂い、変わらぬ風景、精霊樹の爺さま……そして、多数の殺気立った女性たちだった。俺を取り囲むようにして、銘々勝手に声高に喋るもんだから、何を言ってるのか聞き取れない。俺が渡した丸玉のせいで何か困っているらしいんだが……。
当惑する俺を助け出してくれたのは、この村の木工職人で、名をホッブという若い男だった。
「……つまり、俺が渡した丸玉は皆さんお気に召したんだけど、行商人にそれを見られてしつこく何度も出所を追求された、と?」
「んだ……なぁ」
「売ればいい値が付くんだが、折角貰った丸玉を売る気にはなれないので、他にも俺が持ってないかどうか知りたい、と?」
「んだ……なぁ」
「ホッブさんとしては、素の丸玉をブローチだの何だのに加工するのを散々やらされたので、できれば同じ事を繰り返すのは避けたい、と?」
「んだ……けんどなぁ」
「ただ、前回作った細工が今ひとつ不本意な出来だったので、雪辱の機会が欲しい気もする、と?」
「んだんだ」
「なるほど、状況はよく解りました」
『……マスター、あの説明でよく解りましたね?』
『…………』
「まず丸玉ですが、ここに来る途中で入手したものなので、今は手持ちがほとんどありません」
「んだ……かぁ」
「たってとあらば、入手できるかどうか試してみても構いませんけど……」
「ん………」
「あと、アクセサリーのデザインについては、バンクスの町でも色々見てきたので、お話しする事ができます」
「んだか♪」
「ただ、さすがに荷解きやら山小屋の準備やらで忙しいので、二、三日お時間を戴きたいのですが?」
「ん~ん、えぇだ」
「では、二、三日後に」
・・・・・・・・
『マスター、どうします? この騒ぎ』
『どうってなぁ……。問題は丸玉の手配とアクセサリーとしてのデザインの二つだろう。一つずつ検討するか……とりあえず丸玉からだな』
『表向き……どこで……入手した……事に……したのですか?』
『この村へ来る途中で手に入れた……って事にしてある。錬金術で作ったなんて知られたくないしな』
『錬金術の事を……秘匿するなら……入手の時点で……加工してあった……事になります』
『……そうなるな』
『どこで入手した事にするつもりじゃ? 利に聡い商人なら、そこへ向かうぞ?』
『……山脈の向こう側の……秘境の村、とかは?』
遠くと判れば二の足を踏むんじゃないかと思うんだが……。
『隣国の事はこの国にもそれなりに知られておる。そんな都合の良い場所はないわ。大体、そこに問題の原石とやらはあるのか?』
『え、えっと、マスターが財宝か何かを見つけた、というのは?』
『それはそれで面倒の範囲が広がるのでは……』
『どうやら、錬金術の秘匿には無理がありそうじゃな』
『単なる手業とだけ説明なさればよいのではございませんか?』
『色々聞かれるのが面倒だから黙っていた、とか』
と、まぁそういう流れで、丸玉の加工について訊かれたらどう答えるかの方針は決定した。こういう場合に皆が知恵を絞ってくれるのは大いに助かる。……俺の浅知恵はやんわりと否定されたけどね……。
『で、気を取り直して、新たな石の入手だが』
『もう一度ぉ、採りにぃ、行きますぅ?』
『それもいいが……あの原石ってどれもこれも小さな欠片で、しかもそこそこ摩耗していたよな。上流に行けば大きな原石が手に入らないかな?』
もう一話投稿します。




