第二百七十八章 リーロット発諸方面行き迷走便 3.クロウ~モルヴァニア西街道緑化計画~(その1)
粛々とリーロットの緑化に従事していた「緑の標」修道会にとって、その要請はまさに〝青天の霹靂〟であった。
「……は? モルヴァニアから街道緑化への協力依頼?」
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『……というようなややこしい事態に対して我々はどう動くべきか。本日はこの件について討議したい』
頭痛を堪えかねるといった表情のクロウの開幕発言に、打てば響くように応じたのは精霊樹の爺さまであった。
『クロウよ、まず最初に問うておくぞ。モルヴァニアはなぜそんな事を言い出した?』
『爺さまの疑念も尤もだ。俺も無論その点を問い質したし、それは修道会を率いるノックスのやつも同じだったらしいが……』
モルヴァニアからイラストリアへの依頼では、抜かり無くその点についても言及していたようで……
〝ヴォルダバンの商人を呼び込むための道路整備……ですか?〟
〝モルヴァニアの説明によるとそうなっています〟
〝しかし……なぜ選りにも選ってこの街道を? めぼしい街道は他にもあるのでは?〟
〝修道会のお方を前にして何ですが……モルヴァニアの言い分に拠ると、「主要な街道で実施する前に、然して重要でない街道で試してみたい」のだそうで〟
〝成る程……〟
――という遣り取りが、依頼の仲介に訪れたイラストリア外務官僚との間であったという。
『ふぅむ……一応の筋は通っとるようにも聞こえるが……』
『胡散臭さが満々だろ?』
試験的な施工というのを納得するにしても、それをなぜ選りにも選って、仮想敵国テオドラムとの国境線に沿って延びる街道でやらねばならないのか。
『まぁ、モルヴァニアの思惑については後でじっくりと検討するとして、今は今後の事を話したい。繰り返すが、モルヴァニアの申し出に対して我々は……と言うより、修道会はどう対応するべきか』
『ふむ……急ぐ必要があるという訳か?』
『あぁ。何だか知らんがモルヴァニアは、どうもお急ぎのようだからな』
『成る程……』
と、いう具合に一応衆議は一決して、取り敢えず修道会としての対応を決めようという話に……なろうかというところで、
『ですが……ご主人様……肝心の……修道会は……即座に……動けるのですか……?』
『ちょっと待ってよ。本当に引き受けるつもりなの? クロウ』
――相次いで二つの声が疑念を呈した。
『ふむ……発声の順番という事で、まずハイファの質問に答えておこうか。ノックスの話に拠るとだな……』
寧ろ彼らの仕事は、五月祭が終わってからが本番になるだろうとの事であった。
『つまりリーロットとしてはだな、五月祭で明らかになるであおう問題点や反省点を、至急に改善する必要がある訳だ』
『……と、いぅ事はぁ、つまりぃ……』
『修道会は当分、リーロットの町を動けないと……』
『そういう事になる訳ですか』




