第二百七十七章 シェイカーvsヤルタ教~第一幕~ 4.シェイカー見参!(その3)
ここで意地を見せたのが、カラニガンの町で雇われて同行していた冒険者であった。
「ちぃっ! やっぱりか!」
「だがな! こっちもそんくらいは承知の上なんだよ!」
蓄積された(敗退の)経験から、魔法による攻撃は通用しないと割り切っていた彼らは、物理攻撃一辺倒の備えで戦闘に臨んでいたのである。
――それだけではなかった。
近接戦闘を主とするシェイカー戦闘員の二丁鎌に対して、或る者はリーチに勝る長柄の槍や長剣を以て退けようと考え、或る者は双剣によって二丁鎌の攻撃に対応しようとした。
だが……
「ち、畜生っ! こいつら速ぇっ!」
「遅い遅い遅いぃっ! ヰ、ヰーッ!!」
縮地の法でも会得しているのかと言いたくなるほどの迅速な踏み込みで、スルリと間合いの内側に入り込まれてしまっては、ショートレンジでの取り回しに難のある槍や長剣では、却って二丁鎌への対応が難しくなった。
また、
「うわぁっ!?」
「甘い甘い甘いぃっ! ヰーッ!!」
二丁鎌の攻撃に対応できていたかのように見えた双剣も、〝引っ掛ける〟という鎌独特の動きには対応できていなかった。付け焼き刃と言っては言い過ぎであろうが、対・鎌、或いは対・体術の技法に熟達していないために、対応に隙が出た形である。対して二丁鎌の方は、元々が剣術に対応する形で術理が編み上げられているため、双剣であろうと剣の攻撃を去なす事は容易であった。況してシェイカーの戦闘員は、元を辿れば――と言うか、生前は――テオドラムの精鋭部隊である。剣技など裏も表も知り尽くしている。
畢竟、クロウ仕込み――註.知識だけ――の体術と一体化した攻撃を捌く事は叶わず、投げ技・蹴り技・関節技の餌食となっていった。
結果として――
「畜生ぉぉぉっ!」
「無念!」
「また負けた……」
――と、順調に連敗記録の更新に貢献するだけに終わった。
「「「「「ヰ、ヰーッ!!!!!(勝ち鬨)」」」」」
そして――この有様を目にした買い出し部隊の方はと言えば……
「ど、どうかお助けを」
「我らはか弱き商人でございます」
「家には腹を空かせた女房子供が、私の帰りを待っているのです」
「何卒、何卒寛大なるお慈悲をもちまして、どうかお見逃し下さい」
……先程の大言壮語はどこへ行ったのかと言いたくなる程に、見事な掌返しのお手本を披露していた。
「ヰーッ! 命まで取ろうとは言わん。馬車と荷物を置いて、さっさと立ち去れ」
「間違えるな、これは慈悲ではない。ヰー!」
「貴様ら如き社会のダニを駆除する手間が惜しいだけだ。ヰ、ヰーッ!」
「ははーっ! では、お言葉に甘えまして……」
――と、ヤルタ教関係者とカラニガンの冒険者の二グループに別れて、それぞれの目的地へとスタコラ去って行った。すなわち、前者はテオドラムへの入国を選び、後者はカラニガンへの退却を選んだのである。
こうして、シェイカーによるいつもどおりの襲撃イベントは幕を閉じた。




