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第四十一章 バンクス出立

本章はこの一話だけです。

 春、日本時間で言えば四月の上旬、俺たちは四ヵ月ほどの期間を過ごしたバンクスを出立した。何だかんだ言っても四ヵ月も住んでいればそれなりに知り合いや馴染みも出来てくる。それらの人たちに一応の挨拶(あいさつ)を済ませ、宿代を精算し終えて「樫の木亭」を出ると、表にパートリッジ卿とルパのやつが待ち構えていた。見送りなど不要と言っておいたのに、律儀な連中だ。


「クロウ、君のお蔭で僕の本も無事に出版する事ができた。先日工房から届いた見本だ。君が立派な仕事をしたという(あかし)なんだから、持って行け」


 そう言って刷り上がった本を押し付けてきた。いらんと言って返そうとしたが、ふと思い直してありがたく受け取っておく。記念になるだけでなく、ルパの言うとおり、職業の証明にもなりそうだ。こうして見ると中々立派に見える。本だけ見ても作者の残念さは判らないからな。


「残念ながら(わし)の本はまだ刷り上がっておらんからのぅ。今度来た時に渡すのでな、きっと取りに来てくれよ」

「そうだ。クロウ、君は来年もちゃんと帰ってくるんだろうな。まだ描いて欲しい原画は沢山あるんだからな」


 いや、お前の場合、描くだけの段階に至っていないからな。


「描いて欲しいなら、標本の下準備くらいちゃんとしておけよ。あのせいで余計な手間がかかったんだからな。標本の軟化や展足のやり方はしっかり憶えたんだろうな?」


 念を押してみたら眼が泳いでいやがる。また俺にさせようって魂胆だったな。


「……標本の処理はともかく、採集時の注意点はしっかり憶えたぞ。これからは生きている時の状態などもしっかり記録するつもりだ」


 胸を張って言ってるが、それ、当たり前の事だからな? いままで記録をとって無かった事の方がおかしいんだからな?


「ふむ。(わし)としてもクロウ君との会話は大いに勉強になった。こんど発掘に(たずさ)わる機会があれば、色々と試してみたい事も増えたしの」

「あ……そう言えば()(ぜん)、シャルドの件はどうなっています?」

「あぁ、雪解け後の泥濘(ぬかるみ)が消えてからでのうてはまともな作業はできんしの。もうじき動くのではないかの。シャルドを通って行くつもりかね?」

「……悪路を押して旧道を進むほどのメリットも無さそうですね。今回は見送る事にしますよ」


 他愛ない事を喋っていたが、そろそろ出発する頃合いだろう。


「じゃあ、お元気で」

「来年ちゃんと帰ってくるんだぞ」

「戻ったら連絡をくれたまえよ」

「お兄ちゃんっ、またっ、来るっ」


 最後のは看板娘のミンナちゃんだ。来年も来いって言ってるんだろうな。何となく、次の冬もここで過ごす事になりそうだ。


『いいんじゃないですか? マスター』

『食べ物ぉ、美味しかったですぅ』

『そうだな。どうせどこかで冬越しするんなら、別にここでも構わないな』



 こうして俺たちは、冬場の拠点としたバンクスにしばしの別れを告げた。



・・・・・・・・



 クロウがバンクスを後にした三日後、第一大隊の一個小隊からなるシャルド調査隊が王都を出発した。調査隊を率いるのは、すっかり貧乏くじが板についたダールとクルシャンクの二名である。

 考古学者から発掘調査のレクチャーを受けた彼らの任務は、シャルド一帯の測量と予備調査――とは言っても場所が広いので、一応は古代遺跡の発掘時に測量した範囲を広げる形で測量と調査を実施する事になっていた。


 クロウたちが仕込んだ「廃墟」に、目覚めの時が近づこうとしていた。

明日は新章に入ります。

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