第二百七十七章 シェイカーvsヤルタ教~第一幕~ 3.シェイカー見参!(その2)
「……えぇぃ! 何を臆病風に吹かれておるか! 天命我らにあり! 臆するな者共!」
隊商リーダーであるドジソンの叱咤の声に衝き動かされたか、ヤルタ教専属の護衛たちが、我に返ったかのように戦闘態勢に入る。先手を取ろうというのか、魔術師と覚しき者たちが思い思いに攻撃魔法を放ったのだが……
「無駄無駄無駄ぁっっ! ヰーッ!」
「貧弱貧弱ぅっっ!! ヰ、ヰーッ!!」
それらの魔法を嘲笑うかのように、シェイカーの戦闘員(笑)は態とその攻撃を身に受け、そして……何の効果も無い事を誇示して見せた。
「な、何ぃっ!?」
「馬鹿なっ!」
「あぁ……やっぱり……」
渾身の攻撃魔法が何の効果も表さなかった事に、ヤルタ教の魔術師は驚いているようだが……シェイカーの「戦闘員」が身に纏う「戦闘服」の仕様を知っていれば、これくらいは驚くに値しない。
何しろ件の戦闘服は、常日頃から「安全第一」をモットーとするクロウの手によって生み出されたもの。開発の経緯からして並みではなかった。
最初にクロウが考案したのは、対魔法防禦に優れたプロテクターの開発である。参考にしたのは自分自身。魔法に限らず攻撃を悉く吸収・無効化してしまうという、「壊れたダンジョン」の能力であった。
防具をダンジョン化しようというぶっ飛んだ発想については一旦措くとして……最初に参考にした〝防具〟というのがテオドラム兵士の鎧であったためか、最初の試作品は柔軟性に乏しく動きにくい――代わりに剛性は充分以上――という評価に終わった。……まぁ、柔軟性や可塑性・弾性に富むダンジョンを想定するよりは、常識的で順当な結果と言える。
なのにダンジョン化という方向性を捨てきれなかったクロウが、ならば素材に拘ってみようとばかりにアレコレ試し尽くした結果、極々普通の革鎧にダンジョンの能力を――度を過ぎないように注意して少しずつ――付与する事によって、当初の目標を概ねクリアする性能のものを開発する事ができた。「ダンジョニック・プロテクター」の誕生である。
その後、「シェイカー」計画にのめり込んだネスやダバル、ペーターといった面々が性能改善に粛々と邁進した結果、そんじょそこらの魔法攻撃など鼻で嗤えるほどの防禦性能を備えた「戦闘服」が完成したのである。
並みの魔術師の攻撃魔法などでは、それこそ掠り傷一つ負わせる事ができないのであった。
「そんな……」
力無く頽れた魔術師たちに、嘲笑うかのごとき冷たい一瞥を向けた後、
「今度はこちらから行くぞ! ヰーッ!」
――シェイカー戦闘員の反撃が始まった。
「来、来たぞ」
「怯むな! ヤルタの神のご加護を信じろ!」
挫けそうになる心を信仰の力で必死に奮い立たせ、健気にも立ち向かうヤルタ教の護衛たちであったが、
「笑止笑止笑止ぃっ! ヰーッ!」
「未熟未熟未熟ぅっ! ヰーッ!」
変幻自在に繰り出される二丁鎌の素早い動きに、見映え優先――註.宣伝効果を考えた教主ボッカ一世の指導による――の剣で立ち向かうなど、抑無謀としか言えぬものであった。鎧袖一触に蹴散らされて終わったのだが……




