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第二百七十七章 シェイカーvsヤルタ教~第一幕~ 1.これまでのあらすじ(笑)【地図あり】

 四月に入って街道の雪もそろそろ融け出し、交通流通が活溌になろうかという頃、「(こだま)の迷宮」に駐留している「シェイカー」からクロウに通信が入ったのが、この一件の幕開きであった。



『クロウ様、狩り場の山径(やまみち)に隊商と(おぼ)しき馬車が差し掛かりました』

『ほう、久しぶりだな。商人どもめ、このところあの間道を使うのを止めていたようだが……そろそろ痺れを切らせたか?』

『かもしれません。それで、如何(いかが)すればよいかの指示を戴こうかと思いまして』

『うん? テオドラムと取引している商人なら、いつものように蹴散らしてやればいいんじゃないのか?』

『それが……その馬車はヤルタ教の旗を掲げておりまして』

『……何だと?』



・・・・・・・・



 読者は憶えておいでであろうか?

 ヴァザーリの冒険者ギルドとの伝手(つて)を求めたヤルタ教が、ヴァザーリへの酒場の出店……の()(なら)しとして、ヤシュリクに酒場を出すという計画を立て、そのための酒を買い出すべく、ボッカ一世の指示の(もと)にヴォルダヴァンへ出向いた事を。


 その買い出し部隊であるが、ヴォルダバンのイルズでは充分な酒が確保できず、更にカラニガンまで遠征する羽目になったのである。そのせいで予定の期日を大幅にオーバーしており、開店予定日までヤシュリクに戻れるかどうかが(いささ)か怪しくなっていた。

 いや、カラニガンに足を伸ばすと決めた時点で、その事は予想が付いたのだが……買い出し部隊の責任者には、彼なりの思案と成算があった。



(このまま沿岸国を通って戻っていたら、期限に間に合うかどうかは微妙なところだ。しかし、テオドラム国内の間道を突っ走って行けば、ギリギリだが期限には間に合う筈……)


挿絵(By みてみん)


 (かつ)てはイラストリア王国で威勢を振るっていたヤルタ教であったが、クロウの暗躍とノンヒュームの活躍のせいでイラストリアに居辛くなり、テオドラムに活動の舞台を移してから三年に入っている。その間にヤルタ教は、テオドラムの小村などで精力的な布教活動を展開し、小なりとは言えあちこちに教会を設ける事に成功していた。そしてそれらの教会には、有事に備えて連絡用の馬が用意されている……


 ――もうお判りであろう。


 買い出し部隊の責任者は、テオドラム国内に点在するヤルタ教教会を中継地とした、()わば(てん)()制によって、カラニガンから旧都テオドラムを経てマルクトまで一気に駆け抜けようと算段していたのである。主要街道に(こだわ)らずに間道などを利用する分、他の人馬に配慮する事無く突っ走れるので、それも時間短縮に寄与する筈であった。

 男の計画はそれだけではなく、幾つかの主要な教会に置いてある筈のマジックバッグ、それを借り出す事も考えていた。

 買い込んだ大量の酒は馬車に積載してあるが、一部の高級酒はマジックバッグに保管してある。更にこの先の教会からマジックバッグを借り入れる事ができれば、運んでいる酒の幾らかをそっちへ移す事ができる。それはつまり、馬が()く馬車の重さが軽減する事を意味し、負担の減った馬がその分だけ快足を発揮できるという事でもある。


 ()(よう)な計画を抱いている男としては、カラニガンから東に進んでテオドラム国内に入るというのは既定の方針であった。(くだん)山径(やまみち)はあまり整備されていないようだが、我らにはヤルタの神のご加護があるのだ。(ひな)の間道、何するものぞ……と、意気も高らかに出発しようとしたところで、買い出し先の商人から忠告が入った。



「山賊……ですか?」

「あぁ。とにかく滅法(めっぽう)腕の立つ連中でな。丁度、あんたが通ろうっていう間道を狩り場にしてやがる。ただの通行人にゃ手出ししねぇが、商人と見ると獰猛(どうもう)に襲って来やがるんだ。悪い事ぁ言わねぇから、温和(おとな)しくイルズまで戻って、そっからガベルを通って(けえ)んな」



 ……そう言われても、買い出し部隊の方にも事情がある。一刻も早くヤシュリクまで荷を届けねばならないのだ。態々(わざわざ)イルズまで遠廻りしている暇など無い。


 そう判断した責任者の男は、()(せん)な盗賊どもを蹴散らしての強行突破を選択した。我らにはヤルタの神の……(以下略)。

 とは言うものの、山賊退治の作業中に、酒に被害が出るようでは本末転倒である。ここは迎撃戦力の増強を図って、腰抜けの山賊どもを()(かく)して通るのが上策だろう。


 そう判断した責任者の男は、冒険者を追加で護衛に雇うべく、カラニガンの冒険者ギルドまで足を伸ばしたのであるが……



「……何ですと? 雇える冒険者がいない?」

「あぁ。何しろあの間道に網を張ってるやつらは、そんじょそこらの山賊どもたぁ一味も二味も違う。正規軍の一個中隊にも匹敵しようかってぇ、屈強の精兵揃いだ」

「一個中隊……」

「あぁ。そんな訳でな、大事(でえじ)な冒険者を死地に送り込むような真似は、ギルドとしちゃあできねぇんだわ。勘弁してくんな」

「そんな……」



 しかし――と、必至に頭を(ひね)り知恵を絞った男は考える。

 襲撃現場となる間道は、山間(やまあい)を縫って走る細い(みち)だと聞く。そんな場所に一個中隊もの兵力を展開できるのか?



「あぁ、まぁ……一度に出て来るなぁ、精々が半個小隊だってぇ話だが……」

「だったら、充分な数さえ揃っていれば。冒険者のパーティでも撃退は可能では?」

「まぁ、そりゃ……理屈の上じゃそうなるが……」

「是非!」



 渋るギルド職員の男を(なだ)(すか)し丸め込んで、どうにか護衛の頭数をそろえる事はできた。ならば一刻も早く(しゅっ)(たつ)して、待ち受けているであろう山賊どもに無駄足を踏ませてやるのが良かろう。

 何、大丈夫。我らにはヤルタの神の……(以下略)。



 ――とまぁ、これがクロウをして当惑せしめた状況が発生した経緯である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりの直接対決。 [気になる点] 魅せる「殺陣」を理解できる人が、 いてくれるかどうか。 [一言] もっとやれ。
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