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第二百七十六章 クロウ 1.ダンジョンアメニティ問題(その1)

 冬――積雪や降雪によって移動が、何よりもその原因である低温によって生物の活動が大きく妨げられる季節……一般的には。

 しかし、どこにでも例外というのは存在するのが常であって、この世界にも大いなる例外と言えるものが存在した。

 ――その例外の名を「ダンジョン」と言う。


 少し考えれば解る事だがダンジョンというのは、そこに濃集した魔素や魔力に惹かれて棲み付いたダンジョンコアとモンスターから成る有機的な共同体である。

 モンスターの素材を目当てにやって来る冒険者たちを迎え撃ち、時には返り討ちにする事で、ダンジョンが必要とする餌や魔力を回収している。言い換えるとダンジョンにとって、共生しているモンスターの行動の自由と安全を保障する事は、ダンジョンの存立にも関わる至上案件な訳で……例えば、冬の低温でモンスターの活動が鈍りました、その隙を()かれてモンスターが狩られました、戦力が低下したところでダンジョンコアが討伐されました――ではお話にならない。

 (ひっ)(きょう)、ダンジョン内では冬の低温に対する何らかの対策が要求されるという事になる。

 通常は――洞窟型のダンジョンで()く見られるように――構造的な遮蔽(しゃへい)や断熱によって、外からの寒気の侵入を防ぐとともに、内部の暖かい空気を逃がさないようにしている他、ダンジョンによっては地熱を利用して加温と保温に努めているケースもあるくらいだ。


 だが……ダンジョン内の環境が快適好適であるとなると、そこを越冬の場に選ぶものが出て来るのは当然の話。一例を挙げればモルファンである。あそこのダンジョンは野生動物の越冬場所になっているが、冬の短期滞在者が提供する魔素や魔力が侮れないとして、ダンジョンコアもそれを容認しているだけでなく、資源管理の観点からモルファンの側もダンジョンへの手出しを控えているくらいである。


 そんな「冬季におけるダンジョンのあり方問題」に、頭を悩ませている者がここにもいた。言わずと知れたクロウである。



(参ったな……こんな問題があるだなんて、考えた事も無かったぞ……)



 彼が頭を悩ませている問題は既に、冬季に限ったものではなくなっていた。すなわち……



(冒険者の再訪性(リヴィジタビリティ)とダンジョンの快適性(アメニティ)の関係なんて、どう判断すればいいんだよ……)



 事の次第を理解してもらうためには、少し時間を遡ってやる必要があるだろう。



・・・・・・・・



 既に述べたように、その内部にダンジョンモンスターを共生させているダンジョンは、()()べて気温や湿度の変化が小さく、気候的には過ごし易い環境となっている。また、モンスターの排泄物や食べ残しなどはダンジョン自体が吸収してしまうため、意外と衛生的にも好ましい条件下にある。

 無論、クロウのダンジョンもその例外ではない。と言うか、二十一世紀日本人的職場観の持ち主であったクロウは、召喚したダンジョンモンスターに不自由を強いるなど、ダンジョンマスターの名折れであると――異論については気にしないものとする――考えており、職場環境(ダンジョン)の好適性には注意を払っていたため、クロウのダンジョンは他のダンジョンと較べても著しく過ごし易い環境となっていた。


 ――この状況に喜んだのが精霊たちである。


 何しろクロウは精霊門を開くに当たって、手始めに指揮下にあるダンジョンをその立地として提供していたため、そのまま()(くず)しに〝精霊門の近くに小規模なダンジョンを設置する〟ような事になっていた。

 見事に本末転倒した話なのであるが、クロウはそんなものだと考えていた節があり、精霊たちが文句を言う筈は無い。クロウの異常性にすっかり慣れてしまった眷属たちからも異論は出なかったとあって、今や精霊門とクロウのダンジョンは切っても切れない関係にあった。

 精霊たちにしてみれば、トラベルゲートの待合室程度のつもりでいたところが、恰好(かっこう)の避暑地・避寒地にランクアップした訳だから、これは喜ぶのが当然である。


 そこまでなら()したる問題は無かったのだが……話が(いささ)かおかしな方向に転がり出したのは、マナステラに整備中のダンジョンにおいて、精霊たちが作業への協力を申し出てきてからである。

 当該ダンジョンは、まだダンジョンとしては未公開であるが、精霊門の方は既に設置が済んでいるし、ダンジョン内の気温は外より暖かい。勢い、冬の寒さを避けるべく、精霊たちが避寒にやって来ていたのだが……ただで居座るのも気が引けたのか、作業を手伝うと言い出したのである。

 小さく非力な精霊たちであるが、その反面で魔法には()けており、作業への協力はありがたい。身体が小さいという事も、それはつまり小さな隙間に潜り込んでの作業が可能という事である。ダンジョンモンスターにはケイブバットやケイブラットのように身体の小さなものもいる訳で、そういった部分の作業に精霊の協力を当てにできるというのは、これは大いに有益な話であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クロウ、精霊王にジョブチェンジか? [気になる点] 精霊の滞在もダンジョンの養分になるのかな? [一言] 「ダンジョンキングに俺はなる!」と クロウが迷走しないかな。
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