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第二百七十五章 マーカス 3.災厄の金鉱

「……あの世迷(よま)(ごと)が現実になったというのか……?」



 日頃ものに動じないファイドル将軍をして、()くも呆然とならしめた急報とは何であったのかというと、



「まさか……本当に(きん)の鉱脈が見つかるなんて……」



 ――これである。

 いみじくも副官が要約してくれたように、暖かな「災厄の岩窟」内で嬉々として探査業務に励んでいた兵士の一隊が、そこで金鉱脈と(おぼ)しきものを発見したのであった。


 ……これだけなら、そこまで不思議な事ではないようにも思える。

 何しろここ「災厄の岩窟」では、古代の金貨や金鉱石、果ては「愚者の金」とも呼ばれる黄鉄鉱までもが見つかるのだ。それも多からず少なからずという、腹の立つほど微妙な量ばかり。それらを仕込んだダンジョンマスターの性格が知れようというものだ(笑)。


 ところが……今回見つかったのは、「金鉱石」ではなくて「金鉱脈」らしい。しかも、はっきりとしたダンジョンの領域内ではなく、未だダンジョン化していない部分らしい。


 それはつまり……この「金鉱脈」はダンジョンマスターの(わる)巫山戯(ふざけ)などではなく、正真正銘の金鉱脈の可能性があるという事だ。



「……(いま)だ鉱脈の規模や分布は不明だが、少なくとも局所的には、結構な割合で金の粒が見つかるようだぞ。……時ならぬ金鉱熱(ゴールド・ラッシュ)が持ち上がりそうな程度にはな」

「商業ギルドが余計な勘繰りを廻すくらいには――ですか……」



 ――ここで更に問題をややこしくしているのが商業ギルドである。


 一昨年の夏も終わろうかという頃、テオドラムがとある事情から、商業ギルドに〝ダンジョン内で産出する金鉱石の品位〟について問い合わせた事があった。そこから誤解と妄想が迷走した挙げ句に商業ギルドが思い付いたのが、マーカスが金鉱石を得たのをテオドラムがリークしているという、噴飯ものの可能性であった。

 ギルドの方は飽くまで秘密裡に探りを入れたつもりであったが、そこは生き馬の目を抜く凄腕揃いの商人たち、どうやってかそのネタを嗅ぎ付けて、それが(ひそ)やかに広まっていたのである。

 もしもここでこの「金鉱脈」の話が漏れでもしたら、マーカスが痛くもない腹を探られる羽目に陥るのは(ひつ)(じょう)。更にその話がテオドラムに伝わったりした日には、大いに面倒な事になるのが見えている。



「下手をすると国境紛争が再燃しかねん。もしもそんな事になれば……」

「ここのダンジョンマスターがどう出るか……」



 副官共々頭を抱えた将軍であったが、とりあえず部下には厳重な箝口令(かんこうれい)を指示しておく。



「……(そもそも)何でそういう話になったんだ? いや、こっちで(きん)が出たという、商業ギルドの愚にも付かん与太(よた)(ばなし)の事なんだが」



 将軍がこの話を聞いたのも今年に入ってからであり、詳しい事情が今一つ解らない。どこからそういう妄想が飛び出してきたのか。



「それが()く解らないんですが……どうもテオドラムが、ダンジョン内で産出する金鉱石の品位について問い合わせた事があったようです。テオドラムは飽くまで一般的な知識として訊ねたようですが」

「……それがどうして、あの滑稽(こっけい)な誤解に発展する?」

「いえ……どうもギルドの方でも、テオドラムがそういう質問をしてきた理由を考えたようでして……結果、〝マーカス(うち)が金鉱石を得た事をテオドラムがリークしている〟という、アレな結論になったようで……」



 ……成る程。詳しい事情の一端でも知っていれば、愚にも付かない笑い話としか思われまい。副官が報告を上げなかったのも納得できる。なので将軍も、



「〝愚者の考え、休むに似たり〟というのは本当だな……」



 ――と、力無く感想を述べるに留めた。



「……本国には商業ギルドの件も併せて報告し、注意を喚起しておけ。この兼に関して詳しそうな『知識人』の召喚も()(かつ)にはするなと、釘を刺すのも忘れるな」

「承知しました」



 一礼をして引き下がった副官を見送りながら、ファイドル将軍は自身に問いかける。



「……どこまでがダンジョンマスターの思惑(おもわく)のうちなのだろうな」

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