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第二百七十五章 マーカス 2.「災厄の岩窟」(その2)

「あの人騒がせな銅像の事を言っているのだろうが、アレと黄金ゴーレムとの間には、未だに何の関連性も認められておらん。アレはダンジョンマスターの嫌がらせだろうという見解が支配的になっておる。

「仮にその与太(よた)(ばなし)を認めるとしてもだ、人間をゴーレムに変えて使役するような非道なダンジョンマスターが、何でゴーレムのモチベーションなどを気にする?」



 ダンジョンマスターの人物像が一貫性を欠いているだろうが――という反論にもまた、充分以上の説得力があった。



「そうすると……最初の二つの前提から導き出された仮説自体が誤っている――という事になりますが……」

「あのダンジョンにはゴーレム以外にも、暑さ寒さを気にするモンスターが存在する――という事になるな」



 ……成る程。これは確かに厄介な話だ。ファイドル将軍――繰り返すが、つい先頃代将から昇進――が(じゅう)(めん)を作るのも納得できる。しかも、



「……その、未知のモンスターに対する手当としての温度管理が、我々の活動域と重なっているという事は……その未知のモンスターの活動域もまた、我々のそれと重なっているという事になります」

「そこが気になっておる点だ。しかも、その温度管理が今の季節に行なわれておるという事は……」

「……冬にそのモンスターが行動を起こす可能性がある……そういう事になりますか……」



 (しば)し考え込んでいた副官であったが、その仮説には明るい一面もある事を指摘する。



「ですが、そのモンスターが十全に活動するためには温度管理が必要という事は、裏を返せば温度管理が為されていないダンジョン外では活動を制限されるという事になります。……最悪の事態は回避できるのでは?」

「ダンジョン外への即時侵攻を図るために、浅層の環境を整えている可能性もあるがな。……しかしまぁ、ダンジョンマスターがそうまでする理由も、敢えて我々に侵攻を予告するような理由も見当たらんか……」



 ふむ――と考え込んだ将軍に向かって、副官はもう一つの可能性を挙げる。



「ダンジョンマスターの思惑(おもわく)という事であれば……将軍の言われる〝快適な環境〟が、我々のために用意されたという解釈は如何(いかが)でしょうか?」

「我々を穴掘りの労働力と見做(みな)して、その活動が低下するのを嫌ったというのか?」



 自分たちがやったのは、精々(せいぜい)が水源と湖沼鉄の探索ぐらいだ。穴掘り人足の働きとしては、そこまで目覚ましいものではないだろう。

 しかし――隣のテオドラム領域では、毎日のように兵隊たちが、鶴嘴(つるはし)担いで勇んで出勤して行くのだ。その様は確かに〝働き者〟と言うに相応(ふさわ)しいものがある。成る程、あの勤勉振りを保つためというなら、ダンジョンマスターも温度管理の一つや二つはするかもしれぬ。


 そんな感興を抱いていた将軍であったが、



「労働力という他に、自分たちを魔素だか魔力だかの供給源としている可能性も考えられます」



 ――という副官の台詞(せりふ)が耳に引っ掛かった。



「魔力の供給源――だと?」

「はい。ダンジョンというのは魔素や魔力が濃集し易い立地に成立しますが、それらの魔素や魔力の供給源の一つが、ダンジョン内に棲息するモンスター、正確にはその活動です。都市の吹き溜まりのような場所でも、魔力や(しょう)()(よど)みが(たま)さか見つかる事を考えれば、ダンジョンマスターがそういった発想に至る可能性は無視できないかと」

「うむ……」



 自分たちの行動があの性悪ダンジョンマスターの利益になっているというのは業腹(ごうはら)だが、可能性という点では無視できない。ダンジョンに巣喰うモンスターが生身であれば、侵入者の血肉が必要になるかもしれないが、あそこに出没するモンスターは今のところゴーレムだけ。血肉ではなく魔素や魔力で動いているとすれば、それを回収する手段としては巧妙と言えなくもない。少人数の冒険者が(たま)さか侵入するというのではないのだ。大人数の兵士たちが、隊列を組んでダンジョン内に日参しているのだから、回収できる魔力もそれなりの筈。

 ひょっとしてあのダンジョンマスターは、そこまで考えてゴーレムをモンスターに選んだというのか……



 将軍が思考の沼に(はま)()みそうになった時――



「失礼します!!」



 ――まさその「災厄の」ダンジョンから、火急の報告が舞い込んで来た。

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