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第四十章 偽装とオーパーツ 1.偽装の計画

「廃墟」の建造と偽装作業が本格化します。

 王国が近々シャルドの調査に動く。その情報を得た以上、廃墟の偽装を整えるのが俺たちにとって喫緊(きっきん)の課題となった。


『廃墟ダンジョンの内部はあらかた造り終えたが、まだ仕上げが残っている。万が一にも出来たてのダンジョンと見破られては(まず)い事になるから、仕上げには重々念を入れたい。何かアイデアがあれば言ってくれ』

『要するにペテンの打ち合わせじゃな』

『ああ、賭け金は俺たちの安全だ。そう思えば気合いも入るだろ?』

『ぬぅ……確かに、し損じるのは(まず)いのぅ……』

『ご主人様といたしましては、どのような手だてをお考えでございますか?』

『廃墟内部に古びた感じを出すのは、錬金術の「熟成(エイジング)」を使おうと思っている。埋め戻す時には、済まんが土魔法持ちの皆に頼む。少なくとも上層だけは土の粒子に乱れが生じないように、自然に堆積した感じを出してくれ。自然な感じがどういうのかは、後で「シャルド遺跡発掘報告書」の記述を説明するから、それに準じておけば間違いない。幸い、大きな地震とかも無かったようだしな』

『上層だけでよろしいのですか?』

『あぁ、この砦は完成前に放棄されて埋められたという設定だから、埋める時に生じた筈の乱れは問題ない』


『……聞けば偽装案は万全のようではないか? 他に何を考えろと言うんじゃ?』

『決定的な証拠となる小道具とかだな。連中の考えに添ったものを仕込んでやれればいいんだが……』

『うん? どういう事じゃ?』

『人間、自分が期待しているものが見つかった時には、なかなか疑う事をしないもんだ。やつらが心の中で望んでいるものを出してやれば、すんなり本物と信じ込むだろうよ』

『ふむ……。王国がこの地で見出したいと願っておるのものとは、当然ながら自分たちに都合のよいものじゃろうな』

『具体的には?』

『危険でも敵対的でもなく、しかも価値の高いものじゃろう』

『価値って……財宝とかですぁ?』

『放棄された……軍事施設に……財宝だけ……ポツンと……あっても……不自然でしょう……』

『だな。廃墟自体の価値は未完成の砦という点に頼るとして、あとはオーパーツでも仕込んでおくか……。ま、これについては後回しにしよう。次に、敵対的でないというのはどうやって演出するか……』

『罠がなければ、そういう印象を持ちませんか?』

『それも一案じゃのう』

『人間の敵対者である魔族が関わった痕跡を残さないというのはどうですか? あるいは反魔族の形跡を残すとか?』

『むぅ……建造者の正体も目的も明示せずに、反魔族の形跡を残すか……』

『なかなかの難問じゃのう……』

『ますたぁ、聖魔法はぁ?』


 あ……なるほど……。


『砦内部に聖魔法をかけた痕跡だけを残す……そういう事は可能か?』

『……それこそやってみなくては判らんのではないか?』

『あっ、マスター、人間が残していきそうなゴミはどうですか?』

『これまた名案じゃのう。どうせ放棄する砦なら、それほど念入りに掃除はせんじゃろうからな』

『確かにいけそうだな。大体こんなものか? では、次に古いと錯覚させる小道具についてだが』

『財宝は使えんのか?』

『古代都市以降の建造という設定だからなぁ……そうだな、砦とは別に遺跡の一部に発掘の跡を残し、遺跡を避けて建造したように見せかけるか。その上で内部に財宝の幾つかを、不自然でない程度に残しておけば、建造時に掘り当てたように見せかけられるか……』

『じゃが、それは廃墟の建造が古代都市以降であるとの証拠にはなろうが、古く見せかけるという目的には使えんぞ』

 そうなんだよなぁ……。


『そもそも、いつ頃の建造を想定しておるんじゃ?』

『少なくとも王国の建国以前だな。でなきゃ、おかしいだろう?』

『と、言う事は、少なくとも千年以上前になるのう……』

『ん? 今の王家ってそんなに古いのか?』

『いや、途中何度か王朝の交代はあった。要はこの地に安定した政権が誕生してから千年ほど経ったという事じゃ』

『その間ずっとシャルドに人が住んでいたのか? パートリッジ卿の話では、古代都市の頃には栄えていたものの、その後古代都市がなぜか滅亡してからは無人の荒野と化し、シャルドに再び人が住むようになったのは比較的最近のような口ぶりだったんだが』

『……考古学者の言うところの「比較的最近」ではないのか?』

『ああ……そう言う事か……』

『とは言え、千年ほど前から人が住んでいたのではないようじゃ。エルフたちがシャルドを去ってからの事じゃから……』

『待て、シャルドにエルフがいたのか?』

『うむ。(わし)も話に聞いただけじゃが、六百年から七百年ほど前に今のシャルドの地を覆った戦乱を避けて、西の山脈へ逃れたと聞いておる』

『……その話は使えそうだ。戦乱に巻き込まれたというなら、確かな記録も残っていまい。エルフかどうかはしらんが、当時の何者かが戦乱から身を守るために建造したという設定はどうだ?』

『……ありそうな話じゃが……何か思いついたかの?』

『ああ、刃が折れて捨てられたドラゴンの骨製ナイフとか、砕けた魔石の欠片、なんかはどうだ? もちろん「熟成(エイジング)」の加工付きだ』

『……さっきは人間のゴミを残しておくとか言わなんだか?』

『両方残しておくさ。人間とエルフのどちらの遺跡なのか、それとも両者が共に暮らそうとした跡なのか、色々考えてもらわんとな。当時の人間の習慣とかは、図書館で調べる事にしよう。パートリッジ卿の記憶に残るのは避けたいしな』

明日はこの話の続きです。

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