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第二百七十三章 エルギン 2.連絡会議事務局~顔見せの打診~(その2)

 そしてそれとは別に、イラストリア訪問時に携えるべき手土産として、外務部がドラゴンの素材を選定してその確保を外注(・・)した次第についても、既に述べたところである。


 ……もうお解りであろう。

 道路整備とドラゴン討伐。大国モルファンの威信を賭けた二大案件が共に冒険者を当てにしていたため、作業人員の不足が生じたのである。より具体的に言うならば、冒険者の大半が実入りの好かったドラゴン討伐に向かってしまったため、道路工事が予定どおりに完了するかどうかが危ぶまれる事態となったのである。


 そんな状況で、王女訪問の正確なスケジュールなど決められよう筈が無い。モルファンの外務部は、文字どおり顔を(あお)()めさせ額に汗して陳弁にこれ務める羽目になった。道路工事の監督も満足に出来ぬ馬鹿が――と、道路整備を管掌する内務部を呪ったものの、作業遅延の原因となったのは他ならぬ外務部(じぶんたち)のアウトソーシングだとあっては、その怒りの持って行きようも無い。そのストレスの向かう先は、(おの)が胃袋という羽目になった。

 神経性の胃炎に耐えて平謝りに事情を説明するモルファンの外務部に、イラストリア王国の外務幕僚は親近感と共感を覚えたらしく、この件は大きな問題にはならなかった。


 しかし――外交問題にならなかったからと言って、問題の全てが解決した訳ではない。新たな懸案として浮かんで来たのが、ノンヒューム連絡会議に対する扱いである。


 (そもそも)今回の王女留学自体が、〝ノンヒュームとの相互理解を果たすため、彼らの文化や習慣について学びたい〟という名分の(もと)に企画されたものである。ノンヒュームたちの大元締めとも言えるノンヒューム連絡会議事務局を素通りするなどできようか。



〝だからと言って無遠慮に押し掛けたりするのは、それはそれで悪手だろう〟

〝最低でも好感度の低下は避けられないな〟



 国と国との関わりであれば、強大な国力を背景にした恫喝(どうかつ)外交(がいこう)というのもあり得るだろうが、生憎(あいにく)と交渉相手はノンヒューム。固有の領土というものを持たず、隣国イラストリアの一貴族領に間借りの身。モルファンが横暴な手に出れば、さっさと行方(ゆくえ)(くら)ましかねない。そうなると、世界各地のノンヒュームから()(くだり)(はん)を突き付けられるだけでなく、隣国イラストリアとの仲までおかしくなりかねない。悪手も悪手、大悪手であった。



〝それに――だ。件の「ノンヒューム連絡会議」だが、イラストリア王国とも正式な外交関係は結んでいないらしい。……まぁ、取引についてはこの限りでないらしいが〟

〝つまり……我々が先走って伝手(つて)を作ると、イラストリアの顔を潰す事になる訳か〟

〝それはそれで面倒な話だな〟



 一見背反(はいはん)するこの要求の落としどころとして、〝非公式にチラリと、互いの姿を見せ合うだけ〟という、脱力ものの解決策が持ち出されてきたのである。

 ちなみに公式なコネクションとしては、〝ノンヒュームの伝統食品を提供してもらった礼〟という形を取るらしい。


 ちなみに、この面倒案件を振られたイラストリア王国側は、関わると面倒な事になると見て取ったらしく、即行で連絡会議に丸投げしている。賢明と言えば賢明な判断である。



・・・・・・・・



「とは言われても……〝偶然にチラリと互いの姿を認める〟という状況を、どこでどうやって作ればいいのか……我々としても頭の痛いところなのでして」

「あぁ……事務局の建物は大通りから少し引っ込んだ場所にあったんだか」



 という事は、粛々(しゅくしゅく)と進む行列を見物していた事務局の職員と、密かに相手の姿を認め合う――という形式が難しい事を暗示している。一般の見物人に混じって立ち見しているだけの「職員」を、どうやったらそれと識別できるというのだ。建物の前で(とぐろ)を巻いているのならいざ知らず。



「改めて言うが、何とも微妙に面倒な状況になっているもんだな……」

「はぁ……」


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