第二百七十三章 エルギン 1.連絡会議事務局~顔見せの打診~(その1)
少し短いです。
「何と言うか……改めて聞くと、微妙に面倒な状況になっているな」
「はぁ……」
ホルン・トゥバ・ダイムの三名と向かい合って、何とも言えぬコメントを漏らしたのはクロウである。
ここはエルギンにあるノンヒューム連絡会議事務局の一室。そのエルギンは近来無かったほどの大活況に見舞われているのだが……その活況の理由こそが、連絡会議の面々を〝微妙に面倒な状況〟に追いやった元凶でもあった。
クロウ曰くところの〝微妙に面倒な状況〟。
連絡会議がそんな状況に嵌り込んでいる事をクロウが知ったのは、今を去る事九日前、明日はエルギンを発ってエッジ村に向かい、その途中でエルギンに立ち寄ろうかという日の事であった。
明日帰路に就く旨を一応エルギンのノンヒューム連絡会議事務局に伝えておこうと、魔導通信機で連絡を取ったところで、件の微妙な苦境の事を報されたのであった。
のんびり徒歩で帰ろうかと思っていたクロウであったが、これは急いで戻った方が良いと判断。幾分か腰が引けつつも、乗合馬車で帰る事にする。
幸いにして今回はラスコーのような話し好きに捕まる事も無く、平穏無事な旅を過ごして、エルギンに到着。その足で直ちに連絡会議事務局を訪れた次第なのであった。
では、クロウをして緊急の帰途に就かせるに至った、その〝微妙に面倒な状況〟とは何なのか。
「しかし……〝モルファンの王女殿下との、非公式にして然り気無い顔見せ〟って……王国も一体何を考えてるんだ?」
「我々としてもどうするのが良いのか、微妙に思案に困る案件でして……」
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連絡会議事務局が前述の案件をイラストリア国王府から内々に打診されたのは、クロウから連絡があった日の二日前。別の言い方をすれば、モルファンの王女一行がエルギンの町を訪れる二週間前の事であった。
異国のとは言え王族との面会なんて特級事案を、僅か二週間前に通知するなど、控えめに言っても虐めでしかない。下手をすると国際問題である。
ならば、これは大国モルファンによる恫喝外交なのかと言うと……そんな事は全くなく、純然たる不幸と不手際の連鎖によるものであった。一言で云えばモルファンの側にも、今回の一行がいつ王都イラストリアに到達するのか、その日程が正確に読めなかったのである。
モルファンとイラストリアの間に公式な国交が無かったというのも理由の一つであるが、スケジュールをややこしくした最大の要因はそれではなくて、道路工事の進捗状況にあった。
モルファンの王女がモルファンの王都から隣国イラストリアへ向かうというのに、そのルートとなっている道路、殊に、ノイワルデからツーラを経てイラストリアへ至るまでの道路の整備が為されていない……という、或る意味で国辱ものの事案にモルファン当局が気付き、大慌てでその整備に乗り出した一件については既に述べた。当初から作業人員の不足に悩まされたが、その不足分を冒険者を雇傭する事で補った件についても、既に読者の知るところであろう。
クロウの登板を希望する声が多いようですが、あちらではまだ季節的な理由から交通流通が活溌化していません。もう少しお待ち下さい。
なお、クロウサイドの活躍は、次章からほんのり現れてきます。




