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第二百七十二章 珍客現る 4.珍品現る(その3)

「第一にドワーフの作風に似せてあるという事は、ドワーフの手になる作品がそれなりに流通し認知されていたという事だ。でなくては、態々(わざわざ)ドワーフの作風を真似る意味が無い」



 成る程――と、クロウたち三人も(うなず)きを返す。私的な興味から作ったものではなく商業作品であるというなら、世間の需要やトレンドに応じるというのは基本だろう。

 クロウもこれで小説家の端くれであるから、ハーコート卿の意見には同意できる。



「そしてまた、ドワーフの作風に似せてあるという事は、ドワーフの作品が広く受け入れられ、恐らくは好評を博していた事を示唆している」



 この推論にも異論は無い。ドワーフの作品が不評であるなら態々(わざわざ)真似する意味が無く、ドワーフの作品を(おとし)めるのが目的なら、もう少しドワーフ作に似せて作るだろう。


 クロウたちが納得した様子を見て、ハーコート卿は説明を続ける。



「次に取り上げたいのは独自性だ。繰り返すがこの酒盃(ゴブレット)は、ドワーフの作風に似通ってはいるが、明らかにそれとは一線を画している。言うなれば、ドワーフの作風を取り入れた上で、それを参考にして新たなデザインを生み出そうとしているという事だ。

「さて、ここからは少し大胆な想像になる。酒盃(ゴブレット)の作者がドワーフの作風を取り入れながら、敢えてそれとの差別化を打ち出している事を考えると……当時はドワーフの作品、或いはそれを模したものが、世間に(あふ)れていたのではないかと思う。そんな中で自分の独自色を現そうとしたのが、この酒盃(ゴブレット)ではないだろうか」



 快刀乱(かいとうらん)()を断つが如きハーコート卿の解釈に、おぉっと(どよめ)くロイル卿とルパ。クロウも同じ(てい)ではあるが、感嘆のベクトルが少し違っていた。



(あいつら……そんな社会背景まで設定してこれ(・・)を創ったのか)



 ――と、一旦は感心したのであるが、



(……いや、そこまで深く考えずに創ったものを、ハーコート卿が深読みし過ぎた可能性もあるな……)



 これはクロウの疑念の通りで、実のところはハンスもエメンも〝丁度手頃なお手本があったから作った〟というだけの事であった。後日クロウからハーコート卿の解釈を聞かされて、目を丸くして驚き、呆れ、感心する事になるのであった。


 そんなクロウの内心など頓着せず、ハーコート卿は――自信たっぷりに――自説を開陳していく。



「次に年代について述べよう。素材となっている金属の劣化具合から判断して、この酒盃(ゴブレット)が作られたのはざっと六百年から七百年前。……()の『封印遺跡』と同じ時代だな」

「シャルドの遺跡と……」



 何やら話がマナステラ的に興味深くなってきたのを察したのか、ロイル卿も身を乗り出すようにして聞いているのだが……実はこれにも裏話がある。


 元……と言うか、お手本となった酒盃(ゴブレット)の年代がそのくらいであった事もあって、クロウが【エイジング】による擬装を施す際に、つい(シャルドの遺跡建造で)使い慣れた力加減で発動させただけの話である。

 その結果、ハーコート卿が言うように、シャルド封印遺跡と同じ時代の作品という事になったのだが、それは大した問題ではないと考えられていた……この時までは。



「ここにいる諸君は知っているようだが、あの遺跡では色々と面白いものが発見されている。……当時の人族(ヒューマン)がノンヒュームと共存していた証拠――とかね」



 意味ありげな様子で一同を見回すハーコート卿。クロウたちは無言のままに、話を続けろオーラを出してハーコート卿を促す。



「その状況にこの酒盃(ゴブレット)()()めてやると……当時の社会では、恐らくは今以上にノンヒュームたちとの交流が盛んで、彼らの手に成る工芸品なども普及していた事、そしてそれらの状況を反映して、ノンヒューム風のデザインが当たり前のように(まか)(とお)っていた事が示唆される……という訳だ」

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