第二百七十二章 珍客現る 2.珍品現る(その1)
(……何やら見憶えのあるものが出てきたな……)
――というのが、ハーコート卿曰くところの〝掘り出し物〟を目にしたクロウの感想であった。
クロウの感興も宜なるかな、その〝掘り出し物〟とは少し前に、クロウが錬金術の【エイジング】を施して古色を付けた……要するに、エメンとハンスの労作であったのだ。
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既に何度か述べてきたところであるが、アバンの〝迷い家〟こと「間の幻郷」で何をドロップさせるかというのは、地味ながらクロウたちの頭を痛めさせる問題であった。目下の需要はアクセサリーに傾いているが、それのみに頼った場合、バブルが弾けた時が恐ろしい。であるなら、新たな需要を開拓すべき――というのは誰にでも解る。解るのだが、では〝新たな需要〟として何を開拓すべきなのかとなると……これが中々の難問であった。
「まぁ、食いもんとかドレスとかが駄目ってなぁ解るけどよ」
「抑そっち関連だと、僕らには与り知れない分野ですからね。ノルマから解放されるのはありがたいんですけど」
そうはならないだろうな――という点でハンスとエメンの意見が合って、二人揃って溜息を吐く。とりあえず宝飾品という事で考えようという事になり、
「ここは一つ、先人の知恵に倣うというのはどうでしょう?」
「……何をどう倣うってんだ?」
「いえ、難破船からサルベージしたり、海賊が集めていたお宝があるじゃないですか。あれって要するに、その時々の需要を反映したものの筈ですから」
「そいつに肖ろうってか。けどよ、要するに〝金銀財宝〟の一言で括られちまうんじゃねぇのか?」
「いえ、そっちではなくて、デザインの方を」
「成ぁる程……そりゃ面白ぇかもな」
……という具合に話が纏まり、二人して主立ったお宝を検分していたところ、少しばかり面白そうなものが引っかかった。
「……何かドワーフっぽいですけど……これって」
「ドワーフの手じゃねぇな。巧く似せてあるが別物だ」
「つまり、人間が作ったもの――という事ですよね?」
「貴金属の酒盃なんざ、エルフも獣人も作らんだろうからな」
「これだけのものを作れる腕があれば、何も贋物なんか作らなくてもいい気がするんですけど」
「ま、そりゃ客の注文とか世間の売れ筋とか、そういうもんも絡んでくっからよ。……あとは俺みてぇに、紛いもの作る方が面白ぇって臍曲がりもいるだろうしな」
作者の動機はともかくとして、こういった〝ドワーフ作の紛いもの〟が珍重されているという事は、そういう需要があるという事に他ならない。なので、
「ドワーフの作ってんなら、今でも売れるだろうしな」
「ノンヒューム製品の需要は、多分ですけど嘗て無いほどに高まっているでしょうしね」
この方面で攻めて行ってみようと話が纏まったのだが、
「……もろに贋作と言えるものを作ると、後々面倒な事になるかもしれませんね」
「ノンヒュームに臍を曲げられんのもなぁ……ちょいと一工夫してみるか?」
「一工夫?」
「おぅよ。『贋作』じゃなくて『模作』って事にするなぁどうだ?」
「ははぁ……何となくイメージが見えてきましたけど……具体的にはどのように?」
「おぅよ。ドワーフの作を真似たんじゃなくて、〝ドワーフの作風を取り入れた〟って風なものを作れるんじゃねぇかと思ってよ。こいつもどうやら模作っぽいしよ」
「成る程」
――という具合に製作の方針が決定され、出来上がったものに対して、
「成る程、安全保障の一環として、時代を誤魔化しておこうという訳か」
納得したクロウが【エイジング】をかけた。
この時、つい手慣れた力加減になったのは仕方のない事であろうが……結果として、それは〝封印遺跡と同じ頃の古色〟を帯びる事になった。
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長々と説明してきたが……要するにそういった次第でドロップさせ、アラドに持ち込まれた筈のそれが、巡り巡ってハーコート卿の手に入り、この場に登場してきたのであった。




