第三章 エッジ村 3.畑
第三章最終話です。クロウが対外的な拠点を確保しました。
村から借りた山小屋には、狭いながらも畑――今は唯の草っ原だが――が付いていた。適当な薬草なんか植えていたらそれっぽいし、野菜類の自給自足というのも悪くない。地球産の野菜を植えるのはまずいだろうが、村人に頼めば種芋くらい譲ってくれるかもしれん。山菜なんかも悪くないか……。
夢はどんどんと広がっていったが、現実の草っ原を見ると気力も萎える。灌木混じりの草むらを、どうやって畑に戻せばいいんだ……。
『主様、何を考えてるんですか?』
呆けている俺にウィンが話しかけてきた。
『ウィンか。いやな、ここって、少なくとも以前は畑だったらしいんだが、今はこのざまだし、どうしたもんかと思ってな』
『主様! そういう事なら、このウィンにお任せ下さい!』
『……あぁ、そう言えば土魔法と木魔法を持ってたな。かなり大変だと思うんだが、大丈夫か?』
『はいっ。子供たちに手伝わせればすぐです』
子供たち?……。
『ちょっと待て、ウィン。子供たちって、どういう事だ?』
『はい。「単為生殖」のスキルを持ってますから、今すぐにでも卵を孵して子供たちを生み出す事ができるんです』
……あれってスキルだったっけか。単なる種族特性と思ってたわ。
『ふむ。どのみちこのままでは役に立たん。済まんがやってみてくれるか。魔力を消費するなら、後で――食糧か飲料で補填する』
甘露じゃないからな。
『はい、それでは、ご照覧あれ!』
言うが早いかウィンの体の周りから泡のようなものが生じ、やがてそれらが割れて、小さなミミズのようなものが現れた。数は十体程か。
【個体名】なし
【種族】フェイカーワーム(幼体)
フェイカーワームが単為生殖スキルで生み出した幼体。
【地位】ダンジョンモンスター(仮) クロウの従魔(仮)
【レベル】0
【スキル】土魔法(弱) 木魔法(弱)
おぉ……生まれた時からフェイカーワームなのか……。この山小屋もダンジョンには違いないし、一応ダンジョンモンスターというわけだ……(仮)ってついてるけど。
『じゃあ、みんなー、主様の畑を綺麗に耕すんだよー』
ウィンの言葉に、小さいながらもワームたちが反応して、畑に散らばってゆく。ほっこりと心温まる光景だ。
『私も手伝うし、明日には綺麗になってると思いますよー』
おぉ、それは素晴らしい。
『お待ち下さい……ご主人様……それって……目立つのでは……』
あ……。
『ウ、ウィン、ちょっと待て。一日で全部終わっちまったらマズい』
『えー、これくらい余裕ですよー』
いや、そうじゃなくてな……。
『ウィン……ご主人様に……ご迷惑をかけては……なりません……今は……まだ目立つ時期では……ないのです』
『うぅ~、折角主様のお役に立てると思ったのに……』
がっかりしているウィンを見ると、こちらが申し訳ない気になってくる。
『ウィン……あのな……』
『ですから……判らなければ……いいのです……上の草を生やしたまま……根の下の土を……耕しなさい……草を抜くのは……端から少しずつにすれば……ばれやしません』
『そうかっ、ありがとう、ハイファさん。みんなー、聞いての通りだから、人目につかないように草の下だけ耕してねーっ』
ちびワームたちは納得したらしく、土の中に潜って行った。ウィンの方は区画単位の除草を担当する気らしく、見る間に草が抜かれて積み上がってゆく。
『ありがとうな、ハイファ』
『いえ……私もウィンと一緒……いつもご主人様のお役に立ちたいと……思ってますから』
うちの子たちは本当に、俺には過ぎた子供たちだな。
次話は新しい章になります。物語が少しずつ動いていきますが、クロウの主義主張は変わりません。あくまで引き籠もり生活と従魔たちを守るために努力します。