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第二百七十章 関係各位各様~「北街道」顛末~ 10.ヤルタ教(その2)

(報告書を読んだ限りでは、諸国は概ね静観の構えか。まぁ、()(まど)っておるというのが実情じゃろうな。……イスラファンとアムルファンでは、テオドラムに接近する動きがあるそうじゃが……)



 テオドラムの北街道が完成した場合にその恩恵を受けそうなのは、ターミナルとなるマルクトとの間に直通ルートを持つソマリクとヤシュリクだ。将来の利を見越して、今から動くというのは間違っていない。



(……ヤシュリクはイラストリアとの交易が独占できるヴァザーリのルートに執着するかと思うたが……ヴァザーリの復興が大事(おおごと)になると見て、(りょう)天秤(てんびん)を狙っておるのか?)



 だとすれば、ヴァザーリの衰退は約束されたも同然。そして――そんなヴァザーリに店を出せば、逆説的にその存在感は大きくなる道理である。

 ヤルタ教としては、飽くまでヴァザーリに拠点を設けて冒険者ギルドとの伝手(つて)を確保するのが目的であって、ヴァザーリの振興など知った事ではない。ゆえに、この展開は悪くないものだと思えたが、



(……解らんのは、テオドラムもヤシュリクも、ヴァザーリから手を引く気配が無いという事なんじゃが……)



 双方共に(りょう)天秤(てんびん)を狙っているという事だろうか?

 両者の心底(しんてい)は判らねど、ヴァザーリ当局との結託が切れないというなら、ヤルタ教が深入りするのは危険かもしれぬ。



(……助祭が出してきた二つの案のうち、酒場案は危険過ぎるであろう。……小売りの酒屋案が本命であろうな)



 ――ハラド助祭は如才(じょさい)無く、酒場案と酒屋案の両方を提出し、選ぶのは上層部に任せる事にしたらしい。



(じゃが……どこの馬の骨とも知れぬ者がいきなりヴァザーリに店を出すとなると……これは(いささ)か悪目立ちが過ぎるやもしれぬ。……もう一手間掛けての()(なら)しが必要じゃな)



・・・・・・・・



「ヴァザーリに先んじて、五月祭の前にヤシュリクに小売りの酒屋を開かせよ。そしてそこに、イラストリアの五月祭におけるノンヒュームの出店情報を掲示させるのじゃ」



 意外に思われるかもしれないが、酒屋がこの手のフェスティバルの情報を貼り出すのは珍しい事であった。……いや、店側が客にその手の話を教える事は珍しくはない。それをポスターのような形で貼り出す事が珍しいのである。これは(ひとえ)に、まだ紙というものが高価である事が原因である。

 そのような現況に(かんが)みれば、ただサウランド・リーロット・バンクスにおける広場の地図を貼り出すだけでも、客にはありがたい情報であろう。何しろ店にやって来さえすれば、何も買わなくても(・・・・・・・・)その情報が見られるのだ。



「――更に、店で何かを(あがな)った客には、その地図を小さめの紙に刷ったものを渡すがよい。……亜人どもめは()(しゃく)にも、マナステラで客に品書きを配ったと聞く。彼奴(きゃつ)どもの真似をするのは業腹(ごうはら)じゃが、好手となれば採用するに()くは無い。

「二番煎じを試みる店も出るかもしれぬが、出店の時期を選べば、()(たび)の五月祭に間に合わせる事はできまいて」

「は――ははっ!」



 宣伝というものに()けたボッカ一世が打ち出した策は、速やかに実行に移され……る筈であったのだが、



「……何? 売り物たる酒が手に入らぬと?」

「は……遺憾ながら、イラストリアの五月祭を当て込んだ者が多いようで……」



 ――大店(おおだな)()(だな)(こぞ)って酒を買い占めるという挙に出たらしい。一般人向けの小売り分はまだ出廻っているようだが、それとて高騰の兆しを見せているという。卸売りの分に至っては言わずもがな。



「遠地へ……例えばヴォルダヴァン辺りまで足を伸ばせば手に入るやもしれませぬが……」



 ――運送費と日時がかかるのは避けられない。



「うぅむ……事は急を要する。()むを得ん。買い出しの者どもをヴォルダヴァンへ(つか)わせ」


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