第三十九章 考古学者 2.考古学者
新たな人物が登場します。レギュラー化はしませんが、再登場の予定があります……後の方で。
図書館職員の取り次ぎで面会した相手は、ウィルマンド・パートリッジ卿という穏やかな顔つきの老貴族だった。
「今は隠居の身じゃがね。爵位を息子に譲ってからは、この国で考古学者の真似事をしておるよ」
この国? それに考古学?
「この国、と言われましたか?」
「あぁ、うむ。隣国の生まれでの」
「……ははぁ。で、自分に会いたいとの仰せでしたが?」
「うむ。実は先日ルーパート君から挿絵の原画を見せられてのぅ」
……ルパ、てめえ、何やってやがる。
「原画? しかしあれはとっくに版画職人に送った筈では?」
「ルーパート君は大層あの絵がお気に入りでな。魔術師に頼んで五枚ずつ複製してもらったそうじゃ。寸分違わぬ出来なので、職人には複製の方を送ったそうじゃ」
あの野郎……。
「拙作をご覧になって……それで?」
「うむ。挿絵の依頼をしたい」
うん。予想はしてたけどね……。
「御前は考古学に興味をお持ちとか……石器か土器片の作画ですか?」
「いや、儂はそこまで枯れておらんでな、興味があるのはもう少し後の時代、いわゆる古代文明というやつじゃ。具体的には、クロウ君が読んでおったというシャルド遺跡、あの調査結果を纏めたものを出そうかと思うてな」
「シャルド遺跡? しかし、あれは立派な報告書が出ていましたが……挿絵も付いていた筈ですが?」
「残念ながらあの挿絵は、確かに学問的には正確かも知れんが、見た者を引きつける力はない。生憎、儂にはそこまでの技量が無うてな」
「あの図は御前が?」
「人手不足と資金不足でな。不肖この儂が絵筆を執った」
ほほう……これはある意味お誂え向きか?
「自分は工芸品の作画を手がけた経験がありません。何を描けばよいのか見せて戴いてから決めさせてもらっても?」
「もちろん構わん。こちらへ来てくれ」
椅子から立ち上がったパートリッジ卿は、隣室へと俺を誘った。
その部屋は資料室というのか、雑多なまでに多くの出土品が、しかし決して雑然とではなく、きちんと整理して並べてあった。
「高価な物はこの国の王家が保管しておるがな、許しを得た物は儂が購ってここに置いてある」
作画を頼みたいのはこれだと言いながら、十五点ほどの出土品を並べていく。
「……春にはこの町を発ちたいと思いますので、全部の作画はできないと思います。他に頼まれ事もありますし、連日ここに詰めておく事もできませんが、それでも?」
相手の意向を確かめたが、その条件で文句無いという。優先順位の高いものから作画していくことを確認して、その日は屋敷を退去した。
明日の公開分は本章の残り一話と新章の第一話になります。




