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第二百七十章 関係各位各様~「北街道」顛末~ 6.イラストリア

「イスラファンからイラストリア(う ち)に内々の打診? ありゃあ以前に手前勝手な名目をぶら下げて、さんざっぱらイチャモンを付けてきたところでしょうが」

「イスラファン王国からの打診ではのぅて、イスラファンの商業ギルドからの打診なのじゃがな。ついでに言うておくと、お主の言う〝いちゃもん〟を吹っかけてきたのも、イスラファンの王国ではのぅて商業ギルドの方じゃ」

「だったら(おんな)じ事でしょうが」



 例によって例の如く朝も()よから呼び出され、しかもその理由というのがイスラファンからの提案だと聞かされて、イラストリア王国第一大隊長・兼・王国軍総司令官のローバー将軍は、国王の面前である事も(はばか)らずに不機嫌な声を上げた。

 まぁ、将軍の(ちゅう)(ぱら)も故無きものではない。

 イスラファンの商業ギルドと言えば、やれ「幻の革」を融通してほしいの、陶磁器では承服しかねるの、ノンヒュームとの仲を取り持ってほしいのと……妙に上から目線の要求ばかり突き付けてきたのだ。最近では間を取り持つイラストリアの商業ギルドも呆れたものとみえて、仲介を渋るようになっていると聞く。

 そんなクレーマーが又候(またぞろ)何かの〝打診〟を吹っかけてきたと聞かされれば、将軍のご機嫌が四十五度ほど斜めになるのも無理からぬ話である。



「それがの、今度ばかりは『要求』ではのぅて、正真正銘の『打診』なのじゃ。……ヴァザーリの復興と監視を任せてもらえぬか――という、の」

「……どういうこってす?」



 (いぶか)しみながらも職業上の関心を示したローバー将軍に、その(また)従兄(いとこ)でもある王国宰相のカーライル卿が、噛んで含めるように事情を説明する。



「……復興に足掻(あが)くヴァザーリにテオドラムが食指を動かしている、その動きを監視する代わりに、ヴァザーリの復興に手を貸す事を黙認してほしい……成る程、ちょいと考えたくなる話ですな」

「ですが、悪い話ではありません。ヴァザーリ(あそこ)の復興は、王国としても頭の痛い問題でしたから」



 奴隷交易で財を成し、王国の指示も無視しがちだったヴァザーリ。そこがノンヒュームの反撃にあって(ちょう)(らく)したのは――政治的にはともかく心情的には――胸の()くような欣快事であったし、その後のノンヒュームたちの活躍にも(かんが)みて、未だにヴァザーリに対して好意的な見方ができないのも事実である。

 ただし王国としては、このままでは(まず)いというのもまた一面の事実なのであった。


 一応は国の庇護下にあるヴァザーリの衰退を放置しておくのは、為政者としての立場からも好ましくない。()してヴァザーリは、隣国イスラファンとの窓口でもある。早急な復興が望ましいのも事実であった。

 しかしその一方で、(かね)てからノンヒュームを奴隷扱いしていただけでなく、(いま)(もっ)てノンヒュームへの敵意を隠そうとしないヴァザーリは、親ノンヒュームに傾きつつあるイラストリアにとって、多大なお荷物になりつつあった。

 そんなヴァザーリの復興を王国が支援する? ノンヒュームに喧嘩を売るようなものではないか。



「諸般の事情から我々が扱いかねていたヴァザーリの復興を、他者が支援してくれるというのです。反対する必要は無いのでは?」

「ついでにテオドラムの見張りもやってくれるってんですからな。こっちとしちゃありがてぇ限りの話で。……イスラファンのやつらが信用できるってんなら、ね」



 将軍の指摘に、ふむ――と考え込む宰相と国王。確かにその点が問題だろう。



「……現状を整理しましょう。まず、イスラファンの商業ギルドが信用できないというのは、どういう点においてですか?」



 腹心の筈のウォーレン卿から追及される形となったが、こういう論戦は日常の事らしく、将軍も立腹の様子は見せない。ふむ――と考え込む様子を見せて、



「気に入らねぇ点は幾らでもあるが、基本はやつらの身勝手さだな。自分たちの儲けになると思えば、いつでも裏切るようにしか見えん。結局、やつらの動機は利潤追求(かねもうけ)だからな。……待てよ、だとすると……」

「えぇ、他の状況ならいざ知らず、現状で彼らが我が国を裏切る可能性は少ないと考えられます。裏切っても一文の得にもならないばかりか――」

「下手をすりゃあノンヒュームの機嫌を徹底的に損ねるな。俺たちの機嫌は言わずもがな」



 ノンヒュームと敵対したヴァザーリを支援するというだけで、ノンヒュームの機嫌を損ねる可能性が大なのだ。その辺りを上手く取りなしてほしいというのが、イラストリアへ密書を送った理由であろう。

 なのに、その状況でイラストリアを裏切って、ノンヒュームの宿敵テオドラムと手を結ぶ?



「これが国家間の戦争であれば、勝ち馬に乗るという事もあり得るでしょうが……」

「……ノンヒュームは国土を持ってる訳じゃねぇし、テオドラムと直接に(かん)()を交えてる訳でもねぇ。イラストリアがヤバくなったらモルファン辺りにでも鞍替えして、そこから経済的な嫌がらせを続けるだけだ。……そうなったら、イラストリアとの窓口であるヴァザーリもその価値を失う。……連中はババ札を引くだけだな」

「そうなります。信義ではなく損得勘定によって、彼らは裏切るという事をしないでしょう」


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