表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1486/1814

第二百七十章 関係各位各様~「北街道」顛末~ 3.ヴァザーリ(その1)

ヴァザーリ回です。三話構成です。


「テオドラムは一体何を考えているんだ?」

「それが判らんから、ここでこうして雁首(がんくび)並べてるんだろうが」



 情け無さそうな表情で頭を抱えているのは、今や(ちょう)(らく)の坂を真っ逆さまに転がり落ちつつあると評判の、ヴァザーリ首脳部の面々であった。


 このまま腐っていたところで、ヴァザーリの事情が好転する訳でもない。何らかの打開策が必要であろうと、ノンヒュームの「ビール」に代わる……のは無理としても、できればそれに並ぶ事のできる「エール」を造れないかと、密かに開発に乗り出していた。


 ここでその動きに乗ったのがテオドラムである。


 元々テオドラムは、交通の要衝である事と奴隷交易で当時栄えていたヴァザーリに、諜報拠点として酒場を出していた。そこで自国(テオドラム)産のエールを安く売る事で客を集め、噂話(じょうほう)の入手と流布(るふ)の拠点としていたのである。

 ところが、ノンヒュームたちによるヴァザーリ襲撃の巻き添えを喰って、その酒場も閉店を余儀無くされた。しかもその後にノンヒュームがテオドラムとの対決姿勢を強め、新規ビールの販売によってテオドラム産エールを駆逐してのけたため、ヴァザーリの酒場を再建できるような状況ではなくなっていた。いや、事はヴァザーリに留まらず、各地各国に出していた酒場(きょてん)(ことごと)(かん)()(どり)の巣窟と化していたのである。諜報活動などできる訳が無い。

 この事態を重く見たテオドラム上層部は、何とかして諜報拠点の再建を図らんと苦慮していたのだが……肝心のテオドラム産エールが――テオドラムの小麦に対する不信感もあって――売り物にならないときては、打開の策が見えてこよう筈も無い。


 そんなところへ、(かつ)て拠点を置いていたヴァザーリ――今や仇敵と化したノンヒュームが立ち寄りそうにない場所――で、新たなエールを創り出してノンヒュームに対抗しようとする勢力が現れた。この計画に参与せずしてどうせよと言うのか。


 ――といった次第で乗り出して来たテオドラムと、ヴァザーリは密かに手を組んで、新作エールの開発に(まい)(しん)していたのであったが……



「北街道を整備するという事は……テオドラムはヴァザーリに見切りを付けたという事か?」

「いや……先日向こう(テオドラム)の担当者と会った時には、そんな感触は無かったが……」

「相手が(とぼ)けているか……でなければ単にその件を知らされていなかった可能性は?」

「会ったのはその件が公布された後だぞ? 幾ら何でも、そこまで我々がお目出たいとは思っていまい」

「うむ……」

「だとすると……テオドラムは(りょう)天秤(てんびん)(もく)()んでいるという事か?」

「……あり得ん事ではないな。ヴァザーリの酒場が再建されても、アムルファンからマルクトへ至る街道が栄えても、テオドラムにとってはどちらでも悪くない結果になる」

「むぅ……確かに」

「忌々しいが巧妙、いや狡猾(こうかつ)な手ではあるな」

「テオドラムにとっては――な」



 ――と、ヴァザーリ首脳部の面々から散々な評価を下されているテオドラムであるが、本当のところはどうなのかと言えば……濡れ衣である。


 テオドラムとしては、ヴァザーリから手を引くつもりなど露ほども無い。


 (そもそも)の話、北街道の整備は不満分子の誘引を目的として立案された計画である。そこに〝北街道の活用〟などという視点は無い……とまで言ってしまうと言葉が過ぎようが、少なくとも主たる目的ではない。明け透けに言ってしまえば、工事さえしておけばテオドラムの目的は達せられるのだ。

 第一、北街道の整備が完了するのはまだまだ先の事。と言うか、計画を公表して準備に入った段階である。北街道の宿場町が形になって流通が活性化するなど、果たしていつの話になるのやら。

 対して、諜報拠点の拡充は待った無しであるから、テオドラムが(いず)れを重視するかなど、(たず)ねるまでも無い事だ……少なくとも、テオドラムの視点ではそうであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ