第二百七十章 関係各位各様~「北街道」顛末~ 1.ヴォルダヴァン(その1)
テオドラム北街道の一件に関わる関係各位の動きも、本章で一段落となります。発端はテオドラムが自国内の木立を強行伐採した……ただそれだけの事だったのに、巡り巡って予想外に大きな動きとなりました。
ちなみに、ヴォルダヴァン回は二話構成になります。
「テオドラムがおかしな動きを見せている」
ヴォルダバン王城の一室で、国務卿の一人がそう切り出した。が――
「あの国がおかしいのはいつもの事だろう」
――と、これも国務卿の一人から、尤も至極な茶々が入った。
「それはそうだが……それで終わってしまっては話が進まんから、まぁ聞いてくれ」
そう前置きして言い出しっぺの国務卿が説明した内容は、居並ぶ面々を困惑させた。
「小身の行商人を対象に関税の値上げ?」
「それでいて、国と取引のあるような大商人はお咎め無し?」
「どう考えても逆だろう、それは」
関税を取り立てるのが狙いなら、値上げした関税を払えないような、或いは払ってまで入国する旨味が無いような、そんな小商人を対象にするのは解せない話である。寧ろ大商人を狙ってこそ旨味があろう。
「大商人にそっぽを向かれたら我が身が危うくなる――というのは解るが……」
「だとしたら、抑どうしてこんな愚策を持ち出した?」
「しかも、実質的に実施しているのがウォルトラムだけ?」
「ガベルでは厳しい詮議は無し? ……益々筋が通らんだろう」
ウォルトラムもそれなりに大きな都市ではあるが、それはモルヴァニアとヴォルダバンの動きを睨むための防衛都市としての必要性に基づいている。対してガベルは商都としての意味合いが強い。また、ガベルにはヴォルダバンとアムルファンからの主要な街道が通っているのに対して、ウォルトラムと他国を結ぶ「道」は、アバンを経由する小さなものが一本あるだけ。それとて「街道」などと言える規模ではない。商業活動の差は明らかである。
「テオドラムにとって傷が小さくなる形を選んだとも言えるが……」
どうしても商人を抑圧する何らかの必要性があって、せめて国益を損なわない小身の行商人を選んだ……という説明もできなくはないが、
「なぜそうまでする必要がある? そして、それであの国が得る利益は何だ?」
「判らん……と言うより、考えられん」
「無理矢理に理由を付けようとして、そのための口実を捻り出しただけだな」
――という事で、この説明は没となる。他には……
「場所……と言うか、立地条件はどうなんだ?」
「立地と言うと……海に近いか遠いか……」
「……それで説明が付けられるか?」
「……無理だな」
「これも没……いや、海の話ではないのか?」
立地条件について言いだした男に確認する。海からの距離を言いたかった訳ではないのか――と、
「うむ。あまり面白い話ではないのだが……ウォルトラムと他国を結ぶ道は、我が国に至る小道が一本だけ。対してガベルにはアムルファンからの街道も通じている」
その意味するところをじっくりと咀嚼して……面白からぬ、そして同意しかねる結論に達した一同。
「アムルファンへの影響を配慮して、ガベルで事を起こすのは控えたと?」
「対してウォルトラムでは、アムルファンへの忖度は不要として、厳しい詮議を行なった?」
「一応の説明にはなっているが……どう考えても、我が国とアムルファンへの対応が逆だろう」




