第二百六十九章 マーカス 8.マーカス王城(その3)【地図あり】
「グレゴーラムと直接対峙できるような位置に、使えそうな拠点など無いぞ」
――そう、それが問題なのであった。
「最寄りの町と言えばニーダムになるが……少しばかり離れているな」
「あぁ、寧ろイラストリア王国のサウランドの方が近いだろう」
「あの辺りはサウランドから王都に至る街道が通っている。だから派兵そのものは容易なんだが……」
「逆に言えばそれは、あの辺りで戦端を開く事になれば、交通や流通に支障が出るのは避けられんという事だ」
「それはもう已むを得ん。バンクスからの街道で代替するしか無いだろう」
「流通の方はともかく、拠点の方はどうする? ニーダムの西にでも設置するか?」
「いや……変にテオドラムを刺激して、暴発などされては叶わん。徒にイラストリアを警戒させるのも望ましくない。ここはニーダムを強化するのが無難だろう」
「ニルの顰みに倣う訳だな?」
――テオドラムはニルの増強など、夢にも考えていないのだが……マーカスにとってそれは既に確定事項として扱われていた。
「そう言えばニーダムは、丁度グレゴーラムと『災厄の岩窟』を、両睨みできる位置にあるのだな」
「――む?」
「確かに……言われてみれば……」
地図で見れば一目瞭然な気がするが、今まで国務卿たちの頭に思い浮かばなかったのは、
「位置関係はともかく、ニーダムと『岩窟』を直接に結ぶ道路は無いからな。……盲点になっていた」
とは言え、折角誂えたような好条件に恵まれたのだ。利用しない手は無いだろうという訳で、
「この際だ。ニーダムから岩窟へ至る道路を整備するか?」
「確かに……今までは王都から南下する街道を通って、途中で『岩窟』方面に折れていたからな。ニーダムからの直通路を拓けば、万一の時にも対応し易くなる」
「あの辺りは荒れ地で、邪魔になる木々も多くないからな。順路を示す標識を立てて、少し地面を均してやるだけでも大分違うだろう」
「ふむ……『岩窟』への対応だと言えば、ニーダムを強化する口実にも使えるか」
比較的手軽な割には大きな効果が見込めるとあって、この策を採用する事になった。
これで話は終わったかと思いきや、
「なぁ……さっき少し話に出た〝王都から南下する街道〟なんだが……」
「うん? あれがどうかしたか?」
「国境を抜けてモルヴァニアに至る街道だろう。……あまり使われてはおらぬようだがな」
「そう、その街道なんだが、モルヴァニアが少し整備すると言って寄越した」
この報告は少し意外であったらしく、一同が揃って振り向いた。
「あの寂れた街道をか? いや……我が国との連携を考えればあり得るか」
「それもあるが、ヴォルダバンの商人を引き入れる口実にするらしい」
「何?」
「どういう事だ?」
そこでモルヴァニアの状況と、それに纏わる計画を聞かされた国務卿たちは、
「ふむ……二つのダンジョンに対する部隊が連携を強める事を考えると……我が国でも少し街道を整備した方が良いかもしれん」
「〝ヴォルダバンの商人〟とやらが、ついでに我が国にも立ち寄ってくれるかもしれんしな(笑)」




