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第二百六十九章 マーカス 2.マーカス軍・災厄の岩窟駐屯地(その2)【地図あり】

「仮にウォルトラムなりニコーラムなりに戻ったとしてもだ、それはそれで問題がある」

「……は?」

「考えてもみろ。(くだん)のシュレク砦が増員されたのは、今から一年以上も前だろう。増援のための人員をウォルトラムやニコーラムから引き抜いたとして、そのまま補充もせずに放って置く筈が無いだろうが」

「あぁ……それは確かに」

「となると――だ、そこにシュレクからの帰還組が加わるという事は、取りも直さずベテランの兵士が増員されたのと同じ事になる」

「確かに……」

「そこでさっきの問題に戻る。シュレクから引き抜かれた兵士が向かったのは、実際にウォルトラムもしくはニコーラムなのか?」



 ……成る程。これは中々面倒な話だ。

 移動組の向かった先がどこであれ、そこの部隊は戦力の強化を受ける事になる。



「そして――〝行き先がどこか〟という問題は、〝なぜ、そこに増員があったのか〟という問題と直結する。この時点で戦力の強化を受けるような、どんな必然性があったのか」

「………………」

「更には――だ。なぜテオドラムはそれを隠す? 通常の人員移動なら、こんな面倒な真似をせずに、堂々と動かせばいいだろうが」

「……確かに」



 ――違う。

 テオドラムとしては、別に移動を隠したつもりは無い。まぁ、親切に教えてやる気も無かったのであるが。

 テオドラムが年末年始という微妙な時期に兵員の移動を行なったのは、モルヴァニアの駐留戦力が増派される前に事を終えたかったのと、何より一日でも早くウォルトラムの人手不足を補充したかったからだ。

 要するにファイドル代将らの誤解の根幹は、〝ウォルトラムには充分な人員が配置されている〟と読み誤った事にある。実際にはサガンの監視やら「フォルカ」(別名トーレンハイメル城館跡地)の見廻りやら、最近では関税を誤魔化そうとするこすっからい商人の摘発やらで、慢性的な人手不足にあるのだが……遠く離れたマーカスの地では、そこまでの裏事情は判らなかったのだ。


 そして――そういう誤解を踏まえた上でこの件を眺めてみると、〝訓練と経験を積んだベテラン兵士の一隊が、監視の目をまんまと()(くぐ)って、何処(いずこ)かへ密かに移動して行った〟という事になる。

 ……不穏極まりない状況である。



「そこへ持って来て、更に不可解な事態が追加された。テオドラム北街道の開発計画だ」

「マルクトからニルまで、イラストリアとの国境に沿って延びる街道を整備する――という話でしたよね?」


挿絵(By みてみん)


「本当にニルを終着点とするのか、それとも……ニルからグレゴーラムまで延ばす事になるのか、その辺りはまだ判らんがな」

「………………」



 代将の懸念は副官にも解る。マルクトからグレゴーラムまでの街道が整備されたとなると、グレゴーラムへの移動や補給は容易になるだろう。言い換えると、グレゴーラムの継戦能力は高まる。……国境を挟んでグレゴーラムと睨み合う事になるマーカスとしては、少しもありがたくない話である。



「まぁ、それはそれとしてだ。この街道の整備に当たってテオドラムは、作業に軍を使わんつもりらしい」

「完全な民生用として整備するという事でしょうか?」

仮想敵国(イラストリア)との国境に沿って走る街道の整備に、軍事行動を全く考慮しないと言うのか? あり得んだろう」

「………………」

()して、シュレク砦から部隊を引き抜いた事で、人員には余裕ができた筈なんだ。北街道の作業に投入しないのは不自然だろう」

「何か隠された意図がある……そう(おっしゃ)りたいのですね?」

「小官でなくともそう言うだろう。違うか?」

「いえ……確かに」



 ……〝隠された意図〟というのは確かにある。

 ただしそれは、〝工事を不平分子の受け皿として用いるため、軍の関与を極力減らす〟というものであり、代将が懸念するようなものではなかったのだが。



「その懸念から必然的に導かれる解釈として、引き抜かれた兵員の役目は既に決まっている――というものがある」

「既に……決まっている?」

「工事に投入しても構わん筈の部隊を投入しないんだ。既に使(つか)(みち)が決まっていると考えるのが妥当だろう」



 益々(ますます)不穏の色を濃くしていく話に、副官の不安は(いや)()すばかりである。



「……考えられる可能性の一つとして、『陽動』という事がある」

「陽動……北街道の整備が()(くら)ましだと?」



 ――だとすると、本命はシュレクという事に?

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