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第二百六十九章 マーカス 1.マーカス軍・災厄の岩窟駐屯地(その1)

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。


能登半島地震で被害に遭われた方に、衷心よりお見舞い申し上げます。

 テオドラムとマーカスの国境線上にでんと居座る不落のダンジョン「災厄の岩窟」。そこを監視・警戒する目的で両国軍がそれぞれの国境沿いに陣取っているのだが、その片方、マーカス軍の駐屯地に舞台を移そう。

 (かつ)ては「国境監視部隊」などと呼ばれていたようだが、今はより実情に即した「災厄の岩窟駐屯地」の名前で呼ばれている。ちなみに下級兵士の訊き込み(ざつだん)によると、テオドラムでも同様の名前で呼ばれているという。


 その駐屯地の一室――と言うか、司令官執務室(仮)――で、(くだん)の部隊を預かるマーカス王国のファイドル代将――近々正式な将軍に昇進の予定――が、難しい顔をして考え込んでいた。

 ちなみに昇進の件については代将も内示を受けているが、昇進よりもさっさと解任して原隊に戻してほしいのが本音である。



「それは難しいんじゃないでしょうか。特に目立った功績はありませんが目立った失態も無く、しかも地味に実績を積んでいますからね。解任とか異動とかという話にはならないのでは?」



 昇進はここに留め置く事の代償のようなもの……しれっとそう言ってのけた副官に、代将はジットリとした目を向ける。この副官も、着任当時は頼り無さが目立ったが、今ではすっかり頼もしさ(ずぶとさ)を身に着けたようだ。



「お前も同時に昇進の予定だそうだ。上官と一蓮托(いちれんたく)(しょう)で嬉しいだろ」



 代将の皮肉には、ただ頭を下げる事で答える。こんな事で一々目くじらを立てていたら、この部隊の副官は務まらない。



「何やら浮かぬ顔をしておいでなのは、その件ですか?」

「いや――生憎(あいにく)それとは別問題だから安心しろ」



 ――つまり、他に頭を悩ます事案があるという事だ。少しも安心できる話ではない。



「このところのテオドラムの動きが、どうも――な」



 恰好(かっこう)の相談相手がやって来たとばかりに、代将は自分の懸念を開陳する。相談相手というにはちと頼り無いが、こうして他人に説明する事で、(まと)まらなかった考えが(あと)まる事もあるものだ。代将は経験からその事を熟知していたし、それは副官の方も同様である。なので話に付き合う事にする。



「それで――懸念というのは? テオドラムの動きでしたか?」

「と言っても、対外的な動きじゃない。国内での動き……正しく言えば人員配置の事だ」

「人員配置?」



 それはまた、珍しい事で悩んでいるものだ。確かに、どこに誰が配属されたかというのは、我々(マーカス)を含む諸外国にとっても関心事だが……



「いや、人事の話じゃない。間違えるな。言い直すと、兵力の移動についてだ」

「兵力の……移動?」

「あぁ。少し前にモルヴァニアからの連絡があっただろう? シュレクのダンジョンを監視していたテオドラムの砦から、兵員が引っこ抜かれたという」

「あぁ、あの件ですか。新年のドサクサ(まぎ)れにテオドラムがやってくれた」



 元々はシュレクの鉱山労働者(どれい)たちの労働キャンプから始まったシュレク村――現・ダンジョン村――で、採掘に従事させられる労働者(どれい)とその家族(ひとじち)を監視するための拠点として造られたのが、(くだん)のシュレク砦であった。

 その後、クロウの暗躍によってシュレクの鉱山がダンジョン化してからは、そのダンジョンの監視拠点として、更に、国境の向こうに――ダンジョンのスタンピードを監視するという名分の(もと)に――モルヴァニアが部隊を配置してからは、それに対する最前線基地として機能していた。

 その――テオドラムにとっては重要拠点である筈の――シュレク砦から兵員が引き抜かれたという報告がもたらされたのだが、折悪しくも年が明けるか明けないかというタイミングだったため、確認と報告に時間がかかっていたのである。



「引き抜かれた兵員は、それぞれウォルトラムとニコーラムの原隊に戻ったとか聞きましたが?」

「現時点では確認された情報ではない。飽くまで現地の協力者――実際にはテオドラム王国に不信感を抱く、シュレク近在の村人たち――から、噂話を訊き込んだにすぎん」

「それはまぁ……」



 監視の不意を()いて引き抜かれた部隊の移動先など、テオドラムならずとも重大な機密案件である。さすがに地の利のあるモルヴァニアといえども、一朝一夕に調べ上げるのは難しかったようだ。成る程、目の前の上司が頭を痛める訳だ……と思っていたのだが、代将の考えはもう少し先へ行っていた。


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