第二百六十八章 ホルベック卿陞爵顛末~プレリュード~ 7.ノンヒューム連絡会議
今年最後の更新となります。
一方その頃、エルギンの連絡会議事務局に残ったノンヒュームたちは、彼らなりにこの事態に対処しようとしていた。何の事かと言えば……
「我らが事務局を構えている土地の領主が陞爵する。これは目出度い事に違いないな?」
「うむ、間違いない」
「これでこっちへのちょっかいも、少しは減ってくれれば助かるんだが……」
何しろイラストリア王国のノンヒュームと言えば、他所では真似の出来ない価値ある品々を、次々と世に送り出してきたVIPである。縁を持ちたいと考える者は多い訳で、そんな連中のラブコールに辟易していたのが事務局の面々である。
小煩い連中の幾らかは、ホルベック卿が領主権限で追い払ってくれたが、卿よりも上位の貴族となると、無下に追い払うのも難しかったとみえて、会見を頼まれる事も何度かあった。
しかし――此の度ホルベック卿が目出度くも陞爵するという事は、〝卿よりも上位の貴族〟というのが相対的に減る訳で……それはつまり、ノンヒュームたちが巻き込まれる面倒事が減るという事に他ならない。
と、なると……
「ここは是非とも祝いの品を贈り、領主との仲を緊密にしておくべきだと思うが?」
「うむ、それに異存は無い。……異存は無いんだが……」
嘗て自分たちは、純然たる善意からであったにも拘わらず、ホルベック卿に贈った品のせいで、卿に多大な迷惑をかけた事がある。その事を思えば、「贈り物」という行為に対して腰が引けてくるのもまた事実である。
「今度という今度は、卿に迷惑を掛ける訳にはいかん。品目については充分以上に、念を入れて検討するぞ」
「「「「「おぅ!!」」」」」
――という具合に話が纏まっていた。
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「まず――以前に物議を醸したもの、具体的に言えば古酒とクリムゾンバーンの革は除外すべきだろう」
「あぁ、異論は無い」
「論外だろうな」
「卿としても素直には喜べんだろう」
「もの自体は悪くないと思うんだが……なぁ」
「古酒がダメならビールはどうなんだ?」
「悪くはないだろうが……ドランからここまで運ばせるのか? 雪の山径を?」
「マジックバッグを使えば、運搬自体は何とかなるだろうが……」
「今は仕込みの追い込みじゃないのか? 人手が足らんだろう」
「あぁ、下手をすると仕込み自体が終わってない可能性もある。止めておいた方が無難だろう」
「砂糖菓子の類はどうなんだ?」
「……卿は、甘党でいらっしゃるのか?」
「どうだろう……そこまでは……」
「奥方はお喜びになりそうだが……」
「抑、砂糖菓子が置いてあるのはシアカスターだぞ? そこからここまで運ばせるのか?」
「こっちから人を遣っても……時間が掛かるのは一緒か」
「うむ。卿の上洛日程が不明な以上、下手をすると行き違いになるかもしれん」
「上洛の途中でシアカスターに寄ってもらう……って訳にもいかんだろうなぁ」
「贈る相手に手間を掛けさせてどうする」
「かと言って……滞在先を探るのも不躾だろうし、式典の会場に届けるのも……」
「……式典の会場って、王城じゃないのか? そこにシアカスターから砂糖菓子が届く?」
「悪目立ちなんてもんじゃないな……」
「却下だ」
「抑の話としてだ、エルギンの住人たる我々が、エルギンの領主に贈るんだから、ここエルギンで調達できるものであるべきなんじゃないのか?」
「それは……道理かもしれんが……ここにあるのは事務局だぞ? 特産品と言われても……」
「……グラノーラ・バーぐらいか?」
「冒険者向けの携行食だぞ? 貴族向けの贈り物にできるのか?」
「そうすると……あの御仁からお預かりしている陶磁器ぐらいしか無いぞ?」
「勝手に贈っていいもんなのか?」
「一応、我々の裁量で処分していいとは言われているんだが……」
「まぁ……ティーセットぐらいなら無難かもしれんな。そうそう他所にバレるようなもんでもないだろうし」
「有力候補の一つとして挙げておくとして……他には無いか?」
「喜んでもらえたものと言えば……レシピじゃないか? 強壮食の」
「あれかぁ……」
「確かに喜んではもらえたそうだが……」
――ノンヒュームたちの討議はまだ終わりそうにない。
来年の更新は1/5からになります。
それでは良いお年をお迎えください。




