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第二百六十八章 ホルベック卿陞爵顛末~プレリュード~ 6.エッジ村(その2)

 そんな薫陶を受けたエッジ村の面々であるから、単に〝一枚布を(まと)う〟と言っても、軽々に真似できるような(まと)い方はしない。工夫を凝らして洒脱(しゃだつ)・巧妙なドレープの美を生み出していた。

 結果として地味なワンピースが、上に一枚布を(まと)っただけで、一気にドレスに化けるというのだ。それどころか大きめの一枚布を、所々ピンで留めただけで、古代風或いは異国風のドレスが出来上がるのだ。


 つまり、何が言いたいのかというと……



「肩掛けも一緒に贈ったんなら、奥様だってその(まと)い方はご存知の筈でねか?」



 だとしたら、村からストールのようなものを送ったとしても無意味ではないか? 一枚布を(まと)うくらいは自分で試しているだろうし、それでどうにもならないからこそ悩んでいるのだろう。

 ――というのが男の疑問であったが、



「あれなぁ……ちくっと聞いた話じゃ、お嬢様に取られなすったんだと」

「あれまぁ……」



 アクセントとヴァリエーションを考えて、やや小振りな布を付けておいたのだが、飾り布としての(まと)い方を試す前に、娘に強請(ねだ)られて巻き上げられたらしい。当然、〝試しに(まと)ってみる〟事などできなかったようだ。



「まぁ、後々の事も考えて、布も一枚しか付けなかったんだどもな」

「村長も中々腹黒いで」

「馬鹿こくでねぇ。あんドレスはあれで完結したもんだって、ミルさぁも言ってたべ。なら、追加の布は〝アクセサリー〟って事になるで、一緒に送るなぁ筋違いだべよ」

「クロウさぁの言う〝オプション〟つぅやつだわな」



 ……この村長、見かけによらず(したた)かだったようで、ご婦人たちのドレスにあう一枚布を、別途で用意していたらしい。新たに売り付けるつもりだったのか、それとも今回のような事態を想定していたのかは定かでないが、難局の打開に役立ったのは事実である。



「布を留めるんにはホッブさぁの丸玉細工かウッドカメオを使えば、益々(ますます)見てくれが()くなるで」

「やっぱり村長は商売上手だぁ」



・・・・・・・・



 ()くいった次第で、エッジ村が一応の打開策を持っている事を領主夫妻に伝える事になったのだが……



「いや、この雪道の中を、そんな大層なお召し物抱えて突っ走るなんて、そんな真似は遠慮したい」



 万一汚しでもしたら大問題だという事で、現物は雪が融けてから、なるべく早く届けるという事になったのも無理はない。しかしそうすると、現物無しに領主夫人が得心するかというのが問題になる。せめて布の(まと)い方なりと伝授して、その身で確かめてみないと納得できないのではないか。ならばゴートが(まと)い方を伝えれば……



「……すまんが、俺は至って無骨な(たち)でな、こんな複雑な着方は憶え切れそうにない」

「あぁ……(おら)たちも憶えんなぁちと骨だしなぁ……」

「女衆でねぇと無理かもな」



 結局は、(かつ)てクロウが説明に使ったイラスト、あれを書き写した説明書をホルベック卿夫人に届け、夫人が自分で試してみればいいという話に落ち着く。説明書だけで理解できるのは、比較的簡単な(まと)い方に限られるかもしれないが、そこはそれ。布の現物を届ける時に村の女衆に同行してもらい、直々(じきじき)(まと)い方を教授してやればいいだろう。


 結果的には(かつ)て着たドレスの再登板となるが、変幻自在に布を(まと)って洒脱(しゃだつ)()(しょう)を演出するという、()わば「エッジ村風(エッジアン)・ファッション」の神髄を()(ろう)する事になるのだ。エルギンの領主夫人としては(むし)ろ望ましい形になるのではないか。

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― 新着の感想 ―
[一言] そもそも庶民の装いのはずのエッジアンに一度着たドレスをまとわないって貴族観念が間違いじゃね?感はある。
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