第三十八章 王都イラストリア 3.ヤルタ教中央教会
ヤルタ教が動き出します。
「……王家の連中がシャルドに手勢を差し向ける、と?」
「御意」
その報告を聞いたヤルタ教教主ボッカ一世は困惑した。あのような廃墟の町に一体何があるというのだ。
「……規模や編成は判っておるか?」
「規模は一個小隊ほど。編成については、特に目立った点があるとは聞いておりませぬ。いずれにせよ、雪解け後の泥濘が消えてからの話でありましょう」
「……目的についてはどうじゃ?」
「信徒の者が聞き込んだところでは、何でもシャルドの未発掘部分の予備調査を任されたとの話でありましたが……」
「そちも納得しておらぬようだの」
「はい。王国軍が左様な事を引き受けるというのがそもそも不可解。王国軍を束ねるローバー将軍が現王の知人である事を考慮しても、です」
「うむ。王家の者どもめ、一体何を考えておるのか……」
「考えられますのは……」
「何かあるか?」
「前回の試掘で王家は大量の財宝を得ました。二匹目の泥鰌を狙っておるのかも」
「しかし、あの後も財宝目当ての有象無象が随分と掘り返し荒らしまくったと言うではないか?」
「新たに何やら重要な手掛かりを得たのやもしれませぬ」
教主は考えを巡らせる。バレン、ヴァザーリと続いた失態のせいで、このところ教団の資金もいささか不如意になりつつある。財宝があるというなら、何も指をくわえて見ている事もあるまい。この世に神の祝福したもうた楽園を建設するのに使われるなら、亡者の財宝もきっと満足するであろう。この事を早めに察する事ができたというのは、これは神の御意志である。そうに決まった。
ならば、その御意志に叛くのは、敬虔な信徒としてあるまじき愚行である……。
「確か……先日勇者に任命した者どもの生き残りに斥候の者がおったな」
「生き残り……誰一人死んではおりませぬが……はい、斥候職の者は確かにおります。手傷の方も回復して、動くのに差し支えはございません」
「よし、ならばその者をシャルドへ向かわせよ。王家の者が何を考えているのか、密かに探らせるのじゃ」
第一大隊と正面切って事を構えるつもりはないが、王家が何を狙っているのか知らぬのはより危険である。そう考えた教主は、シャルドの様子を探らせる事に決めた。
「斥候の者以外にも、王家の意向が那辺にあるか、心利きたる者を遣わして探らせよ。遺跡となれば学者どもにも何らかの話は届いておる筈。教団の存在に気づかれぬよう、心して探索に当たらせよ」
ここに、クロウ・王家・ヤルタ教の三者が、遺跡の町シャルドを舞台に、三つ巴の探り合いを演じる事になった……のだろうか。
明日は新章に入ります。




