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第二百六十七章 モルヴァニア 5.モルヴァニア王城(その5)

 今一つの問題は、アラドからシュレクの近辺まで、()して賑わってもいない街道を通って商人を差し向ける口実であったが……国務卿の一人が面白い、そしてクロウ陣営にとっては厄介極まる策を案出した。それが、先程話題に上った〝街道の緑化〟である。


 街道の大規模改修などやって、(いたずら)にテオドラムを刺激するのもどうかという判断から、行商人を誘致する理由として、交通の便を持ち出すのは(まず)かろうと考えられていたのだが……



〝いや……誘致するのが小規模な行商人だというのなら、街道の拡大などは()して恩恵にはなるまい。ここは(むし)ろ、過ごし易さに目を向けてはどうだ?〟

〝過ごし易さ? ……旅路のか?〟



 男がそう言って話し出したのは……あろう事か、「緑の(しるべ)」修道会が中心となって進めている街道緑化の件であったから、話はおかしな方向に転がり出す。



〝成る程……街道の規模を拡大するのではなく、休憩所や街路樹を増やすのか〟

〝それなら民間での活動だと主張する事もできるな〟



 ……などという、クロウが知ったら大いに憤慨しそうな内容が、モルヴァニアの国策として決定されていた。


 しかし――仮にイラストリアを通じて「緑の(しるべ)」修道会に依頼するとしても、いつ頃の着工になるかは未知数。せめて資材の手配ぐらいは先に済ませておこう。場合によっては、修道会からは助言を貰うだけという形にして、自国――飽くまで表に出るのは、修道会の活動に共感した民間人――で作業を進める事も視野の内。

 そういった事情から、雪の降る前に或る程度の準備は整えていたのであるが……



「いや、しかしあれは大兵力の移動を念頭に置いたものではないぞ? 単に小身の商人でも使い易いように、快適性を向上させるという――」

「テオドラムのやつらにそんな事は判らんだろう」

「ふむ……物資と人員を集積するだけでも、牽制ぐらいの効果はあるかもしれん。やるべきだな」

(くだん)の修道会にも話を通して、せめて助言だけでも貰わんとな」

「なら、ついでにマーカスに話を通すという件も……」

「あぁ、現実的になってきたな」



 七曲がり八曲がり、紆余(うよ)(きょく)(せつ)の末にではあったが、どうにか計画の骨子らしいものは(まと)まった。



「……こうなると、アラドには積極的に行商人を引き入れるべきか?」

「ふむ……〝口の軽い〟行商人なら、事によると面白いネタを漏らしてくれるかもしれんな」



 ――などという悪巧みも巡らされたが、



「いや待て。その場合は、我々が(もく)()んでいる『裏取引』が露見する危険も高まるのではないか?」

「あ……そっちがあったか」

「海千山千の商人たちだからな。余計な火種は呼び込まぬが良策か」



 ……となったところで、一人が新たな懸念を持ち出した。



「仮定の話になるんだが……アラドの状況を見てテオドラムが行動を控えたとして、だ」

「うん?」

「何か問題があるのか?」

「いや……その場合、テオドラムはアラドの様子を探ろうと、密偵を送って来るのではないか?」

「「「あ……」」」



 もしもテオドラムの密偵がアラドをうろちょろするような事になると、シュレク村(仮称)との密交易の計画が露見しかねない。モルヴァニアにとって、それは何よりも避けたい事であった。


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