第二百六十六章 アバン 12.宿泊者たち~井戸端会議~(その6)【地図あり】
舞台裏で耳を欹てていたクロウ一味の困惑など何するものぞとばかりに、水場での話題はいつしかアラドの町の事に移っていた。
まぁレンドとスキットルの二人にしてみれば、この先行く予定も無いテオドラムより、孰れ訪れる事になるであろうアラドの方が気になるというのは、頗る当然の話である。
その「アラド」という地名がどこから出て来たのかと言うと……
「さっき〝テオドラムではアクセサリーを売らない〟と仰いましたけど……やっぱり売り先はサガン一択ですか?」
「ま、拾ったもんがアクセサリーなら、やっぱりサガンに持ってくわな」
「……アクセサリーでなかった場合は?」
「そん時ゃあ、まぁアラド辺りに持ち込むかな。駄目ならサガンに戻ってから、売り先を探してもいい訳だし」
――と、こういう流れで登場した訳である。
まぁ実際に、アバンから先に進むとすれば、行く先はテオドラムのウォルトラムか、或いはモルヴァニアのアラドになる。関税の件でテオドラムが行き先候補から脱落すれば、残る候補はアラドという事になる。選択の余地など無いのであった。
そしてそういう事であれば、レンドとスキットルの二人がこの後に向かう先も決まったようなものだ――アラドである。
話題の赴く先という事で、二人もごく自然な形で、アラドについての基礎情報を入手した。そうなると、今度は別の事が気になりだす。曰く――〝アクセサリー以外のものがドロップする事は多いのか?〟
何しろレンドとスキットルが請け負った――と言うか、押し付けられた――任務というのが、アバンのドロップ品の素性調査である。
アバンアクセサリーがノンヒュームの手になるものではないらしい事は判ったが、〝アクセサリー以外のドロップ品〟はどうなのか、それは未検証の懸案事項である。であれば、レンドが前述のような問いを放ったのも宜なるかなである。
「それ、なぁ……」
「今んところはアクセサリーのドロップが多いが……」
「アバンのドロップはなぁ……落ちるものがひょいひょい変わるからなぁ……」
昨日二人を馬車に同乗させてくれた商人も言っていたように、アバンで何がドロップするのかはかなりあやふやである。今のところはアクセサリーが主流であるが、これまでに品目を転変させてきた経歴に鑑みれば、いつ何時パターンが変わるか知れたものではない。
故にこそ、商人たちも普段から注意はしているようだ。注意おさおさ怠りないといったところか。
「今んところだと、六四か七三でアクセサリーが主流だな」
そこはクロウたちも考えており、ドロップ品が偏らないように配慮していた。
アクセサリーが六~七割というのは偏りではないのか――という批判もあろうが……実はこの〝アクセサリー〟の中には、ハンスとエメン謹製のものと、純然たるサルベージ品とが混在しており、クロウたちからすれば〝大きな偏りは無い〟のであった。




