第二百六十六章 アバン 11.宿泊者たち~井戸端会議~(その5)【地図あり】
アバンを訪れる者が増えてから、運試しの後にテオドラムに入国する行商人も増えた。それは確かな事実である。
しかし――それの何がテオドラムの気に障ったというのだ?
アクセサリーが国内に流入するのを嫌った可能性は無くもないが……
「いや、何も態々テオドラムで、アクセサリーを売っ払う必要は無ぇからな?」
サガンの商業ギルドが買い取りを表明しているのだし、モルヴァニアのアラドだってテオドラムよりは購買力が大きいだろう。敢えてテオドラムで売却する理由は無い。である以上、それをやった商人が多いとは思えない。つまり、テオドラムが気にする理由が無い。
「……という事は、商取引が理由ではないのかもしれませんね」
「あん?」
「どういうこった? 兄ちゃん」
ただの思い付きなんですが――と前置きしてレンドが語った可能性とは、
「単に入国者の人数が増えるのを嫌った……ってのか?」
「えぇ。うろ憶えなんですが、確かウォルトラムの町というのは、シュレクに近いんじゃなかったですか?」
「近いっつうか……ウォルトラムとニコーラムの真ん中辺りだな、シュレクは」
「まぁ、シュレクに何かあったら、ウォルトラムからも兵隊が出るだろうが……そうか、それが原因か」
「考えられる可能性の一つではないかと」
シュレクと言えば「怨毒の廃坑」、怨霊とドラゴンがスタンピード紛いの騒ぎを起こしたと評判のダンジョンがある。成る程、そこの警戒に人手を取られたというのなら、ウォルトラムが人手不足に陥っている可能性はある。
「入国する者が増えて、その対処に人手を取られるのを嫌ったか……」
「ありそうな話にも聞こえるが……幾ら何でもそこまでするか?」
「いや、何しろあのテオドラムだからな。これくらいの無茶は平気でやるかもしれん」
「「「「「う~む……」」」」」
〝あのテオドラム〟というパワーワードには説得力があったとみえて、何となくレンドの仮説が支持される流れとなった。ただ……そのせいで噂話の規制という発想に至らなかったのも事実である。
ともあれ、井戸端会議の面々はこれで納得したようだったが、その結論(仮)に違和感を感じていた者もいた。誰あろう、舞台裏で聴き耳を立てていたクロウである。
『いや……テオドラムはシュレクの砦から人員を引っこ抜いただろうが』
シュレクを監視する位置に建設中であったテオドラムの砦。完成したら直ぐにでも奪ってやろうと、クロウは手薬煉引いて待ち構えていたのだが……少し前にテオドラムが砦から人員を引き抜いた事で、当の砦の完成が遅れる事に立腹した憶えがある。
その記憶も新しいクロウとしては、ウォルトラムの人手不足が深刻という仮説には、納得できないものを感じていた。
『本当に人手不足なんだとしたら……あの兵隊どもはどこへ消えた?』




