第二百六十六章 アバン 10.宿泊者たち~井戸端会議~(その4)【地図あり】
「『シェイカー』のやつらが居座っているカラニガンからのルートは別にして――だ。テオドラムと周辺国を結ぶ主要な街道は他に六つある。その街道が集まっている町と言えばガベルとマルクト、最近はそこにニルの町が加わった」
銘々が地図を脳裏に思い描き、その発言に頷きを返す。
「どの街道から入って来ようと、結局はそれらの町に集まるしか無ぇ訳だから、関税の処理もその町で行なわれる。ただなぁ……これらの町じゃ値上げ分の別途徴集なんざ、ほとんどされてねぇっていうんだわ」
「「「「「………………」」」」」
小商人からチマチマと小銭を追徴したところで、得られる金額など微々たるものだ。寧ろ人件費の方が高くつくだろう。それくらいならいっそ目溢しをした方が、双方にとっての利益になる……というのはまぁ解らないでもない。解らないのはその大元で――
「……益々値上げの理由が解りませんね」
「だろう?」
――いや、一つだけ説明らしきものが思い付ける。それは……
「アバンを経由した人の流れを遮断、少なくとも規制しようとしている……」
「他に理由は考えられないだろうが、あぁ?」
厳密に言えばテオドラムが規制しようとしているのは、彼ら行商人たちが持ち込む噂話なのだが、そこまでの裏事情は彼らには判らない。それに、テオドラムが採った実際的な方策だけを見れば、男の解釈も強ち間違いとは言えない。
――問題はその理由である。
「アバンから何かが入って来るのを警戒してるってのか?」
「元々アバンはテオドラム最寄りの村だったからな。テオドラムの連中が何か、俺たちが知らねぇような事を知ってても、確かにおかしかぁ無ぇんだが……」
居並ぶ面々も当惑顔であるが、
「……いや、それはやっぱりおかしいだろう。アバンの迷い家が噂になってから随分経つんだ。警戒するならもっと前だろう」
「そうなんだよなぁ……」
そうすると、テオドラムが警戒しているのは〝アバンにある――またはあった――何か〟ではなく……
「近頃のアバンの状況……って事になるのか?」
このところアバンに起こった状況の変化と言えば、
「アバンにやって来る者が増えた――か?」
長年の間ひっそり閑としていたアバンの廃村を訪れる者が増えたのは、ここに「迷い家」現れると評判になってから、具体的には昨年の初夏以来である。
その人数は時を追う毎に増えていたのだが、それが一気に急増したのが先月の頭。
「商業ギルドがアクセサリーの買い取りを告知してからだな」
テオドラムが関税の値上げを告知したのが先月末だから、時期的な平仄は合っている。ただ……
「テオドラムとアバンドロップのアクセサリーと、一体どういう関係があるんだ?」
「「「「「………………」」」」」




