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第二百六十六章 アバン 8.宿泊者たち~井戸端会議~(その2)

「へぇ……? 悪霊とかの気配は無いってか?」

「飽くまで今現在の状況は――という事ですけど」



 話の流れでスキットルが、少しばかり死霊術(ネクロマンシー)の心得があるとカミングアウトしたところ、廃村の安全性について質問されたのである。

 実際彼は昨日到着した時に、安全確認の意味から辺りの死霊の気配を探っており、何の気配も無い――地下にある「(あわい)の幻郷」の本体は察知できなかったようだ――事を確認している。実際に地上部に限って言えば、スキットルの発言も嘘ではない。偵察要員として怨霊(ゴースト)を配属するという案もあったのだが、万一目撃されたら話がややこしくなるという異論が出され、少なくとも地上部での待機は見送られていた。


 ともあれ、(れっき)とした死霊術師(ネクロマンサー)からの安全(?)宣言は、居合わせた行商人たちを安堵させるには充分であったようだ。クロウとしても好ましい展開である。



「まぁ、ここは死人が出て村を捨てた訳じゃないからな」

「あ、そうなんですか?」

「……隣の国(テオドラム)が剣呑な動きを見せたんで、侵攻の巻き添えを喰らう前に逃げ出した――と聞きましたが?」

「あー……世間じゃそう思われてるみてぇだが、実際のところは少し違うんだな、これが」



 スキットルと同じ理由を聞いていたクロウたちは、おや?――と、地下のモニタールームで身を乗り出した。これは(しっか)りと聴いておかないと、後々ボロを出しかねない。



アバン(ここ)にいた連中がテオドラムを怖れてなかったとは言わねぇが、一番の原因は盗賊だったんだな」

「「――盗賊?」」



 意外なワードが飛び出して来たと、思わず声を揃えた二人。無論、地下で聴き耳を立てているクロウたちも同じである。



「あぁ。こかぁ(くに)(ざかい)()ぐ傍にあるもんで、盗賊どもがズラかるにゃ都合が好かったって訳だ」

「あぁ……」

「そういう事ですか」



 事情を聴いた二人は納得顔だが……要するに、村を襲った盗賊がテオドラムの領内に逃げ込むと、ヴォルダバンとしても追跡を続ける訳にはいかない。そんな事をすれば国境侵犯案件である。()(ぎし)りしながら見送るしか無かったそうだ。


 そう聞くと、何かテオドラムが背後で糸を引いていたような気がするが……さすがにそれは濡れ衣であったらしい。



「だからって、テオドラムが盗賊を(かくま)ったって訳じゃねぇ。寧ろ逃げ込んだ盗賊を発見したら、問答無用で討伐していたくらいだ」

「賊どもだってそんな事ぁ承知の上よ。物騒なテオドラムに長居を決め込む事なんしねぇ」

「ただな。ヴォルダバンの兵士なり何なりが国境を越えるのには、ちゃんとした手続きが要るからな。盗賊たちはその隙に逃げちまう訳だ」



 国境管理のややこしさと手間を()いて、逃亡のために利用していたらしい。虚仮(こけ)にされた形の両国は向きになって盗賊狩りに精勤したようだが、焼け石に水と言った有様であったという。



「テオドラムも国境警備はしていたんだが、盗賊だって馬鹿正直に街道を通る訳じゃない。街道から外れた場所で国境を越えられると、間に合わなかった事も多かったらしい」

「実際、テオドラムにとっても負担になってたらしくてな」



 だからという訳か、盗賊の跳梁に音を上げた村が移転を決めた時には、



「テオドラムからも手伝いが出たってよ」

「「――手伝い?」」



 声を上げた二人は、屈強の兵士たちが家財道具を満載した荷車を押している光景を幻視したようだが……



「じゃなくて、道中の警戒と護衛だな」

「念の入った事に、事前にヴォルダバンに話を通すまでしたそうだぜ」

「「ははぁ……」」



 世上の風説とは違う話もあるもんだなぁと、スキットルとレンドの二人――および、背後で聴き耳を立てているクロウたち――は感心したのであった。

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