第二百六十六章 アバン 6.宿主~ダンジョンマスター (その5)
『マナステラの状況を探れますかな?』
スレイがシャノアに問いかけるが、
『向こうにいる子に頼めば、できるとは思うけど……』
問われたシャノアも浮かぬ顔である。
何しろ、事は単なる噂話ではない。恐らくはマナステラ王国でも機密扱いであろう案件である。精霊が如何に神出鬼没であろうと、そう易々と探り出せるネタではあるまい。
それに第一、派手に精霊を動かせば、マナステラに気取られる虞がある。再度繰り返すが、マナステラに新ダンジョンを準備中の現在、いつもと違う事態がひっそり進行中……などと気付かれるのは好ましくない。
『何も態々、こっちから人員を派遣する必要は無いだろうが』
『……と、仰いますと?』
『マナステラ上層部にコネのあるやつが、按排好くここに来ているだろうが』
『あ、成る程』
とは言っても、別にあの二人を洗脳しようとか、こっそり盗聴器をくっ付けようとか、そういうつもりはクロウには無い。第一その一人は、仮にもネスの弟子のようなものだ。不義理な真似などできる筈も無い。
『別にそんな真似をしなくても、こうしてあいつらの言動に注意しているだけで、そこそこ良いネタが拾えているだろうが』
『確かに』
そうなると、あの二人に対する方針も、自ずと定まってこようというものだ。
『盗み聴き……いえっ、傍受とか情報収集とかの期間は、長い方が好いですよね?』
『能く解ってるじゃないかキーン』
『そういたしますと……』
『あぁ。焦ってお土産を渡す必要は無いな』
今までここに滞在した商人たちの動きに倣うなら、二~三日はここに腰を据えて運を試し、その後に腰を上げて商売の目的地に向かう。そして帰りに再びここに立ち寄って運試し……というスケジュールになる筈だ。何かを渡すとしても、帰りの滞在の終わり方でいいだろう。
『下手に何かを渡すと、即座にトンズラしかねんからな』
ウンウンと頷いて同意を示した一同であったが、ここに一石を投じた者がいた。
『あの――陛下』
『マナステラからのあの二人組ですが』
『今回こっきりの利用と考えておいでなのでしょうか?』
『うん……?』
どうせ行き摩りの成り行きでここにやって来たんだろうから、適当にあしらってそれでお終い――とクロウは考えていたのだが、「スリーピース」には別の意見があるらしい。
『いえ、彼らはマナステラから何らかの指示を受けて、ここにやって来た訳です』
『ならば遣り方次第では、彼らを反復してここに来させるようにも、持って行けるのではないかと』
『そうすれば、マナステラの思惑を探る一助にもなりそうですし』
『う~む……』
さすがに精霊の身で、ダンジョンマスターを志望するだけの事はある。クロウですら思い付かない策を上申してきたのだ。
『……だが、現状ではやつらが受けた「指示」というのが判らんのだぞ?』
それが判らない以上、彼らの意思を誘導するなど、机上の空論に終わるのではないか?
『ですから、それが判明した場合の選択肢の一つとして、ご一考戴ければ』
『幸いに、彼らの動きを左右できる、ドロップ品という手札はある訳ですし』
『彼らが帰路にここへ立ち寄るまで――という時間的猶予もありますから、検討する時間はあるのではないかと』
『う~む……』




