第二百六十六章 アバン 4.宿主~ダンジョンマスター (その3)
『入手したアクセサリーを商業ギルドが買い集めているのなら』
『アクセサリーを売る伝手を持たない商人でも』
『ドロップ品を換金する事はできますか』
「スリーピース」――ここ「間の幻郷」でダンジョンマスターの見習いを務めている三人組の精霊――が言うように、入手したアクセサリーを換金するルートが確立しているのであれば、処分の伝手を持つ商人だけが集まって来るという事態は避けられる。いや寧ろ、商業ギルドが買い取りを受け持つというのであれば、来訪者の多様性は却って高まるかもしれない。
『だとしたら、今の状態を維持した方が好都合か?』
ドロップ品の内容を変える事で、幅広い客層のニーズを満たそうとしていたのだが、サガンの商業ギルドが動いているとなると……
『今の状態を変えるのは』
『寧ろ悪手となるかもしれません。それに……』
『ドロップ品の内容を変えるとなると……』
「スリーピース」たちが口を濁したその先は、クロウが正しく読み解いていた。
『デザイン部の負担が大きいか……』
現在主流となっているアクセサリーのデザインは、担当者となったエメンとハンスが苦労して仕上げたものである。これを更に別のものに変えるとなると、更なる手間暇がかかるだろう――というのはクロウにも解る。
しかし……
『でもぉ、今のままだとぉ、ァクセサリー以外を拾った人がぁ』
『ババを引く事になりそうですな』
『確かにその可能性はあるか……』
いや、〝可能性がある〟と言うより、既に現状でそうなっているのではないか?
疑問を含んだ視線をエメンとハンスに向けると、
『あー……まぁ確かに、女向けの装身具だけじゃアレだろうってんで……』
『サルベージ品を参考にして、それ以外のものも適当に流してます』
――と、アクセサリー以外の宝飾品もドロップさせている事が判明する。
だとすると、それらを拾った者はどうしているのか。
『外れクジを処分するルートが必要な筈だな』
クロウの言うように、アクセサリー以外のドロップ品を処分するルートの存在が鍵となるだろう。
既に成立している可能性も高いが、無ければこちらで手配する事も視野に入れるべきか。
『そこまでする必要があるの? クロウ』
『まぁ、ダンジョンマスターの仕事じゃないとは俺も思うが……』
『そこはもう今更じゃろう』
『………………』
精霊樹の爺さまの突っ込みと、それに対するクロウの葛藤はさて措いて……補完的な流通ルートが存在する事でドロップ品の処分がし易くなり、商人たちも来訪のハードルが低くなるのは事実だろう。多数の商人がアバンの廃村にやって来る事で、入手できる情報の量と種類も高まる筈だ。
『けど、面倒事も増えたりしない?』
『可能性が無いとは言わんが……ドロップの頻度を適当に調整してやれば、来訪者が殺到するような事にはならんだろう。それに、今後の事もある』
『今後の事?』
首を傾げたシャノアに対して、クロウは噛んで含めるような口調で説明する。商業ギルドによる買い取りが永続的とは限らないと。
『ギルドは誰かの依頼を受けて動いているようだからな。その依頼人の意図が判らない以上、こちらとしても打つ手は限られる。買い取りが無くなった場合の事を想定するのは必要だろう』
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