第三十八章 王都イラストリア 1.王国軍第一大隊
新章に入ります。
「……で、結局のところ怪しむに充分なネタは幾つ残ったんだ?」
うんざりしたような声で尋ねたのは第一大隊の主、ローバー将軍であった。その問いに答えたのは、これも第一大隊の有名人、将軍の懐刀として知られるウォーレン卿であった。
「図書寮からの分も併せて十件ほど、多いのか少ないのか微妙ですね。モローに近い順に挙げていくと、まずはモローの旧ダンジョンにある先史時代の遺跡。次にシャルドの古代都市、バレル峡谷の祟り神、ニンヴィクの銭返し、ホーラの浮島、オハラ高原の幽霊船……」
「待て、その銭返しとか幽霊船ってなぁ何だ?」
「阿漕な商いで稼いだ金がいつの間にか正当な所有者のもとへ戻っているという話で、ニンヴィクじゃ広く知られた話だそうです。あとオハラ高原の幽霊船は、海じゃなく空中に浮かぶんだそうで……」
「……ホーラの浮島の船版か? まぁいい、続けろ」
「はい。タシュガルトの人喰い沼、モードの嗤う馬……」
「おい、バレル峡谷にニンヴィクにモードって、やけにバレン男爵領の話が多くねぇか? それに嗤う馬ってのは一体全体何だ?」
「あそこは元々迷信深い土地柄なんですよ。それもあって亜人への畏れが敵意に転化したようですね。あ、嗤う馬ですが、モードじゃ十年に一度、必ずどこかの牧場で人間の声で嗤う馬が産まれるんだそうです。その馬の嗤い声を聞いた者は一年以内に死ぬんだそうで」
「……他には?」
「ネーロの迷い家、ディンクスの夜泣き道、あとは番外としてドラゴンの巣というのがありますね」
「……その番外ってやつが一番臭ぇんじゃねぇか?」
「いえ、ドラゴンの巣が王国内にあるかどうかすら不明なのですよ。北の方から飛んで来るというだけで。雲を掴むような話なので、一応番外に」
説明を聞き終えた将軍は、心底疲れ切った様子で深く溜息をつくと、ウォーレン卿を促した。
「それで? 王国の剃刀殿は、このごった煮をどう捌く?」
「……この十件のうち、具体的な場所が特定できており、接触する事が可能なものはそう多くありません。それに、バレン男爵領の三件――バレル峡谷、ニンヴィク、モード――は多分除外できます」
「ほう? なぜだ?」
「我々の目を逸らせたいのなら、バレン男爵領での通商破壊作戦でこの三つを対象にしたのはなぜでしょうか。注目されるのは判っていた筈です」
「……ふむ、優先順位が低いのは納得しよう」
「ありがとうございます。そうすると結局残ったのは三つ。モロー、シャルド、ネーロです。中でも、既に発掘した経緯のあるシャルドが怪しいかと」
「……ふん。まぁ、モローの遺跡は今更だし、ネーロの件は噂ばかりで具体的な物証がないしな。よし、ウォーレン、ドラゴンの巣の件も加えたうえで、陛下にご説明申し上げろ」
「はぁ……。こういうのって自分の柄じゃないんですけどねぇ……」
明日は本章の続きです。




