第二百六十六章 アバン 1.宿泊者~マナステラからの二人組~
舞台をアバンに移して、レンドとスキットルのお話再開です。本章も少し長くなります。
「雪のアバンで野営は無理――そう思ってたんですけどねぇ……」
「……考えてみれば『廃村』なんだから、空き家には事欠かない訳だよね……」
雪中の野営も覚悟して来たレンドとスキットルの二人であったが、アバンでは廃屋に泊まるのが定番化している……と聞いて呆れる事になった。「廃村」には「廃屋」が付きものだというごく当たり前の事に思いが至らなかったのは、
「……故国でもただ〝廃村〟とだけしか聞いていなかったからねぇ……」
「ここまで確りした建物が残っているとは、思ってもいませんでした……」
ここアバンの具体的な状況などは知らなかったのが原因であった。廃屋が使用に耐える状態で残っているなど、想像もしていなかった訳である。
だが、現実に建物が残っているなら、そこを一夜の塒とする事に異存は無い。廃屋だろうが何だろうが、屋根がある方がありがたいに決まっている。
尤も、〝どうせ廃屋なんだから〟――と、不埒な考えを抱くのは厳禁らしい。泊まった後の始末は確りとしておくようにと釘を刺された。まぁ、自分の後にも続くであろう利用者の事を考えれば、ごく当たり前の事なのであるが、
「空き家とは言え綺麗に使った者は、迷い家に呼ばれる可能性が高まる……と、言ってましたね」
「その反対に、乱暴に使った者やその仲間と思われた者は、とんとお座敷がかからなくなる……とも言ってたね」
要は二人が乱暴に使って、その迸りを喰らうのは御免だという事らしい。二人とてそんなつもりは全く無いので、丁寧に使う事を承諾したのは勿論である。
その事を教えてくれた商人一行であるが……二人とは別行動を採っている。
とは言っても、別に二人に愛想を尽かした訳ではなく、商人ならではの実利的な理由からであった。一言で云うなら、アバンドロップを得る確率を高めるためである。
――事は〝廃村の迷い家〟こと「間の幻郷」の御目見得当時にまで遡る。
アバンの廃村を訪れた者を適当に選び、その者に不要品を提供する……という方針は早めに立ったものの、その対象者をどう選定するのか。
単身廃村に泊まるような者はいいとして、問題は複数人で行動している者たちである。その中から任意で一人を選び、その対象者だけをダンジョン内に転移させる……などという手間を面倒がったクロウの判断で、同じ場所に泊まっている者は――余程に大人数の場合を除いて――一つのグループとして取り扱うという方針が立てられた。例えば、馬車を連ねて旅をしている商隊の場合は一台の馬車、幾つかの廃屋に分かれて宿泊した者たちの場合はそのうちの一軒を、招待の対象とする事にしたのである。
この方針から、直ちに次のような行動指針が導かれた。即ち――
「……なるべく多くの廃屋に分かれて泊まる――ねぇ……」
「確かにそうすれば、単一の商隊でもドロップ品を得る確率は高まりますね」
「まぁ、分け前をどうするか――っていう問題は起きそうだけどね」
商人たちの逞しさにクロウも呆れはしたものの、それぞれ少人数のグループに分かれて宿泊するのなら、人数を勘案してドロップ品の数を調整する――などという手間からは解放される。だったら認めてもいいだろうという事になった。
分散して宿泊する事でサンプル数が増え、〝綺麗に泊まった者は、迷い家に招かれ易くなる〟という傾向が明瞭なものとなり、結果として宿泊者のモラル向上に繋がったのは、想定外の効果と言ってよいだろう。




