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第二百六十五章 バンクス~雪の積もった日~ 2.意図せざる提案

 ロイル卿に依頼の品を届け、ついでに望んでもいなかった追加注文を受けた後、パートリッジ卿とシャルドの今後についての雑談を()わしてから、クロウはパートリッジ邸を辞した。


 久方ぶりの晴天でもあり、気分転換を兼ねて少し街中を歩いていたクロウが出会ったのは、ここバンクスの顔役の一人であった。どうやら雪掻きの仕事を終えたところのようだ。



「ご精が出ますね」

「あぁ、毎年それなりには降るんだが、今年は特に多い」

「あ、やっぱり」



 クロウがバンクスで冬を越すのも今年で五回を数えるが、今年ほど積もった事は無かった。ひょっとして、自分が宿に引き籠もっている時に雪掻きを済ませていたのかとも思ったが、別にそういう事は無く、今年は例年に無く雪が多いというだけのようだ。


 そのせいで、常ならぬ積雪に常ならぬ雪掻きの労を()いられたのが不満のタネ……とばかり思っていたのだが、どうやら男の不平の素は、もう少し深いところにあったらしい。



「これだけ積もると捨て場にも困る。いつもなら適当に空いた場所へうっちゃっておくんだが……今年それをやると、下手をすると五月まで泥濘(ぬかるみ)が残りそうだ」



 五月にはモルファンの王女がイラストリアに留学して来る。

 ここバンクスはその通り道となるのが確定しており、住民を挙げて町の整備・清掃に邁進(まいしん)しているというのに……泥道は(もと)より、融け残った雪が片隅に薄汚く積み上がっているなど、町の美観を損ねるではないか。

 斑雪(はだれ)(みやび)と思う意識は無いのだな……などと、彼我の心情の違いに思いを馳せるクロウであったが、そんな内心はおくびにも出さず、調子好く相槌(あいづち)を打っておく。



「へぇ、五月まで残りますか」

「あぁ。モルファンの王女様がお越し遊ばすってのに、街中に積んどく訳にもいかねぇから、南の廃鉱にでも持ってって投げとくしかねぇ。……全く、余計な手間だぜ」



 顔役の男が言った〝南の廃鉱〟とは、バンクスの南に位置する二つの小さな山塊にある鉱脈のうち、既に掘り尽くされて放置されている場所の事であろう。

 (かつ)てダンジョンが存在していた場所ではあるが、鉱石の採掘に執念を燃やすドワーフたちの頑張りもあって、そのダンジョンは既に討伐されている。その跡地には鉱石採掘のため、小規模なドワーフ居留地が成立している。


 なので、雪を捨てるに当たっても、彼らと交渉する必要があるだろう。――成る程、男が〝余計な手間〟と言いたくなる気持ちも解るというものだ。


 が――そんな男の心情を深く忖度(そんたく)する事など無く、クロウは何気無い様子で言葉を発した。……或る意味でバンクスの今後を左右する事になる、その言葉を。



「廃鉱ですか……坑道の中なら陽も当たらないし、五月までは充分残りそうですね」

「ん? ……いや、廃坑の中に運び込むなんて手間はかけず、そこらにうっちゃっとくつもりだったんだが……何かあるってか?」

「いえ、五月祭の頃まで雪が保存できれば、飲み物を冷やすのにも使えるかな――と」

「ほぉ……」



 その後、()(あい)()い二言三言を()わしてクロウがその場を辞した後も、顔役の男は(しばら)く考え込んでいたが……やがて(おもむろ)に顔を上げると、顔役の仲間を呼び集めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほどなー、誰かが思いつきそうなもんだが余計な一手間が入るが故の盲点であったか
[良い点] 存在しなかった氷室案が生まれてしまった
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