第二百六十四章 噂の真相? 8.来訪者たち(その3)
攻守ところを代えて、今回質問を放ったのはスキットルであった。
スキットルにしてみれば、自分がうっかりと漏らした不用意な一言が余計な面倒を引き起こした訳で、そこには幾許かの申し訳無さが含まれていた。
まぁそれはそれとして、今後の方針としてスキットルに思い付けたものは、
①取り急ぎ本国へ連絡して指示を請う。
②早手回しにアバンへ行ってドロップ品を狙う。或いは、ドロップ品を得た者と交渉してそれを譲ってもらう。
③アバンに立ち寄った商人がその次に行くであろう場所に陣取って交渉を狙う。
――という三つぐらいであったが……レンドの答はその何れとも違っていた。
「うん? そりゃ、僕たちの仕事は飽くまで〝ノンヒュームの古美術品探索〟が第一だからね。そっちを優先するさ。まずは……今日はもう遅いから明日にでも、ギルドが教えてくれた商人を当たってみるとしようか」
スキットルには少し意外に思えたが、レンドは飽くまで当初の方針を墨守するつもりのようだ。まぁアバンドロップの件については、今のところは可能性に過ぎない訳だし、対応が多少遅れたところで問題は無い。それを考えれば、レンドの決断も由無しとする事はできない。堅実と言えば堅実な方針である。
ちなみに、〝ギルドが教えてくれた商人〟というのには二種類あって、その一つは〝ノンヒュームの古美術品を扱っているかもしれない商人〟であり、もう一つは〝アクセサリー以外のアバンドロップを入手したという商人〟である。
後者について説明を補足しておけば、サガンの商業ギルドは〝アバンのアクセサリーを買い入れる〟という告知を出しているだけであって、積極的に買い漁っている訳でも、況して供出を強要している訳でもない。ギルドに売るかどうかの判断は、飽くまで個々の商人に任せている。
ゆえにアクセサリーを入手しても、自分の裁量で処分しようと目論んでギルドには報告しない商人がいてもおかしくはない。況や、アクセサリー以外のアバンドロップにおいてをや――である。
そこまでギルドは関知しない、個々の商人の動きにまで感けてはいられない――というのがギルド側の説明であった。
その説明は、レンドとスキットルの二人にも納得できるものであった。寧ろ二人が意外に思ったのは、
「思っていたよりあっさりと教えてくれましたね」
――この件に関するギルド側の態度であった。
「依頼人からは、できるだけ内密にと頼まれた――なんて漏らしていましたけど」
殊更秘匿しているようには見えなかったのである。
「まぁ、それはね。下手に秘密にしようとすると、却って商人たちの好奇心を煽る事になったかもしれないし」
然り気無い告知の方が却って目立たないという計算があったのかもしれないと、レンドは言うのであった。
寧ろレンドが気にしていたのは、
「ギルドはアバンアクセサリーを買い集めてはいるが、それは決して強要ではない。買い占めではないし、価格操作を目論んでもいないという事のようだね」
――その指摘に、今度はスキットルが感心していた。
なるほど、これが商人の視点というものか。冒険者からは、況して死霊術師からは、まず出て来ない発想である。概念として一応知ってはいたが、確かに視点の違いというものは重要なのだな――と甚く実感していたのであった。
「……先行者利益が狙いという事かな?」
――などとレンドは気を回していたが実際のところは、依頼人たる貴族本人にコレクター気質が無かったというだけであったりする。真相というものは得てして他愛無いものだ。
それはともかく――
「じゃあ、この後の方針としては」
「二、三日はサガンで調べもの、その後は本国に一報を入れてから、アバンに向かうとしようか」




